岸田文雄首相に「選挙資金192万円着服」疑惑 政党交付金から出された選挙資金の残余金を返還せず「非課税の個人所得」に

 

 

岸田文雄・首相自身に裏金疑惑(時事通信フォト)

岸田文雄・首相自身に裏金疑惑(時事通信フォト)© NEWSポストセブン 提供

 自民党最大派閥・安倍派の「裏金問題」の泥沼化で窮地に追い込まれた岸田文雄・首相は、苦し紛れの人事で幕引きを図るが、そうはいかない。身内の自民党内からも“退陣やむなし”の声が出始めるなか、本誌・週刊ポストは政権にトドメを刺す岸田首相自身の裏金疑惑を掴んだ──。【前後編の前編。後編を読む

【図解】岸田首相「選挙運動費用」192万円“着服”のカラクリ

非課税の個人所得に

 岸田首相は派閥の裏金疑惑の責任をすべて安倍派に押し付け、同派の大臣や自民党幹部らの更迭を決めた。まるで、“裏金は安倍派の問題、オレは関係ない”といわんばかりの態度だ。

 それで自分は逃げ切れると思っているなら甘すぎる。岸田首相自身に重大な「政治とカネ」の疑惑が浮上した。

 安倍派は派閥のパーティー券収入を議員にキックバックして裏金化していたが、岸田首相は全く別の手法で裏金を作っていたのだ。

 鍵を握るのが「選挙運動費用収支報告書」という資料だ。

 政治家は政治資金収支報告書とは別に、選挙のたびに選挙費用の収支を記録した報告書を選挙管理委員会に提出しなければならない。本誌は、2021年10月31日に実施された前回総選挙時の大臣や自民党有力政治家が提出した選挙運動費用収支報告書を分析し、そこから岸田首相が「選挙資金ロンダリング」と呼ばれる方法で政党交付金を“着服”していた疑惑を掴んだ。

 

 手口はこうだ。選挙は政治家個人の活動として行なわれる。そのため選挙費用は自己資金や「陣中見舞い」と呼ばれる支援者からの寄附などで賄われ、新人や若手議員は選挙費用を借金するケースも少なくない。

 岸田首相の「選挙運動費用収支報告書」によると、前回総選挙の前に選挙費用として代表を務める自民党広島県第一選挙区支部から1200万円(うち500万円は税金が原資の政党交付金)を自分自身に寄附し、「その他収入」の100万円と合わせて1300万円を用意した。

 問題はその収支だ。選挙の支出は人件費、印刷費、広告費など合計約1305万円だったが、そのうちビラやポスター、看板の作成、ハガキの作成費用などの約197万円は公費で賄われた。岸田首相が負担した金額は約1108万円で、収入との差額約192万円の残余金が出た(図参照)。

 政党交付金という税金を選挙費用に充てたのだから、残余金は岸田首相から政党支部に寄附して返すのが筋だろう。そうしていれば、残余金をどう使ったのかも支部の政治資金収支報告書で辿ることができる。

 ところが、岸田首相の政党支部の政治資金収支報告書を見ると、自身からの寄附はゼロ。約192万円の残余金は岸田首相の手元に残ったのだ。

 このカネは、どう扱われるのか。

 国税庁課税部個人課税課の担当者が説明する。

「議員本人が選挙運動に使うために寄せられた寄附収入などは、選挙管理委員会に報告がなされている場合、所得税も贈与税も非課税になります。基本的にはすべて選挙活動に使われるのが一般的だと考えますが、残余金が出た場合は使い方にかかわらず非課税の個人所得となります。確定申告の必要はありません」

 残余金は「非課税の個人所得」すなわち首相のポケットマネーになったのだ。

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 このカラクリを使うと、政治家は選挙のたびに“裏金”をつくることができる。

 選挙の際に、政党支部から政党交付金(税金)を自分自身に寄附し、選挙費用を余らせて「非課税の個人所得」にする。税務申告の必要がなく、何にでも自由に使える金が生まれる。政界で「選挙資金ロンダリング」と呼ばれる手法だ。

 自民党派閥の裏金問題を刑事告発するなど、「政治とカネ」を追及し続けてきた上脇博之・神戸学院大学教授が指摘する。

「選挙の収支で出た残余金が非課税の個人所得になるというのは、“法の抜け道”です。それを利用して政治家は選挙のために集めた寄附を持ち逃げできる。ましてや岸田首相のようにその原資が政党支部の政党交付金なら、税金を含む選挙費用の残余金を個人のものにしたということになる。その残余金を選挙や政治に使っていれば、まさに裏金そのものです」

 

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 岸田首相は残余金を何に使ったのか。

 それを問う前に、残余金をキチンと政党支部に返した政治家のケースを見てみよう。

 河野太郎・デジタル相は前回総選挙時に政党支部からの約201万円の寄附と支援者などからの陣中見舞いで総額約811万円の選挙資金を用意し、支部から出した金額以上の約234万円の残余金があったが、「選挙の残余金はその年の12月に河野太郎本人からの寄附として全額政党支部に返しています」(事務所回答)と説明する。

 小泉進次郎・元環境相も政党支部からの寄附500万円と陣中見舞いなどで選挙資金1428万円を用意し、残余金約341万円は全額政党支部に寄附していた。

「弊事務所では使途を明確にすべく、政治団体へ寄附し、その収支を報告することとしています」(小泉進次郎事務所)

 政治資金を透明化するためには、当たり前の対応だろう。

 ちなみに高市早苗・経済安保相、小泉龍司・法相などの閣僚たちの選挙運動費用収支報告書は収支がピッタリで残余金ゼロだった。選挙費用をピッタリ使い切るというのも奇妙な印象はあるが、それにしても岸田首相の公金に対する杜撰な感覚が際立つ。

 首相はどう説明するのか。岸田事務所は文書でこう回答した。

「公選法の適用を受ける選挙に係る公職の候補者が選挙運動に関し贈与により取得した金銭、物品その他財産上の利益で選挙運動収支報告書に報告したものについては、所得税法及び相続税法で非課税とされています。したがって、選挙運動費用の残金を選挙後に政治活動に支出したとしても改めて課税関係が生じることはありません」(事務所回答)

 選挙費用の残余金は「非課税の個人所得」になるという「法の抜け穴」を楯に“ポケットに入れてどこが悪い”と開き直ったのだ。

 しかも、岸田事務所の回答は、首相が残余金を「政治活動」に使ったようなニュアンスだが、だとすれば、もっと重大な問題につながる。首相は残余金を政党支部に返さずにいったん個人のポケットマネーにしたうえで、政治資金収支報告書に載らない“裏金”として政治活動に使ったことになるからだ。

後編に続く

※週刊ポスト2024年1月1・5日号