精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の第36条には、精神科病院の管理者は、入院患者について行動制限ができることが規定されています(隔離と身体拘束は、精神保健指定医が認めた場合のみ可能)。
また、第37条には、厚生労働大臣が入院患者の処遇について基準を定めることが規定されています。
参考:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO123.html
以下は、厚生労働大臣が定める処遇の基準の抜粋です。
〇精神保健福祉法第37条第1項の規定に基づく厚生大臣が定める処遇の基準(昭和 63 年4月8日 厚生省告示第 130 号)
第一 基本理念
入院患者の処遇は、患者の個人としての尊厳を尊重し、その人権に配慮しつつ、適切な精神医療の確保及び社会復帰の促進に資するものでなければならないものとする。また、処遇に当たって、患者の自由の制限が必要とされる場合においても、その旨を患者にできる限り説明して制限を行うよう努めるとともに、その制限は患者の症状に応じて最も制限の少ない方法により行われなければならないものとする。
第二 通信・面会について
(略)
第三 患者の隔離について
1 基本的な考え方
(略)
2 対象となる患者に関する事項
隔離の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、隔離以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合
イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合
ウ 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合
エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合
オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合
3 遵守事項
(略)
第四 身体的拘束について
1 基本的な考え方
(1)身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。
(2)身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならないものとする。
(3)(略)
2 対象となる患者に関する事項
身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
イ 多動又は不穏が顕著である場合
ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合
3 遵守事項
(1)身体的拘束に当たっては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるよう努めるとともに、身体的拘束を行った旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。
(2)(略)
(3)(略)
参考:http://www.kansatuhou.net/10_shiryoshu/02_02daijinkokuji.html
身体拘束の対象となる患者の基準は、隔離の対象となる患者の基準と比較すると、具体的でないような気がします。
「不穏が顕著」って何でしょうかね。
コウの場合、消去法で考えると、アとウ(自殺、自傷、生命の危険)や、イの「多動」に該当するとは思えないので、不穏が顕著に該当するということになるんでしょうけど・・・
また、患者に対する説明責任や、拘束以外の方法への切り替えについては、「努める」という努力義務になっているところが、何とも・・・。
しかも、遵守事項にも努力義務があるし・・・
結果的に説明や他の方法に切り替えをしなくても、基準違反には当たらないということでしょうか。
一般の方のみならず、精神科病院に入院された方、若しくはそのご家族の方も、このような基準があることを知らないこともあると思います。
私自身も、息子が入院した際には全く知りませんでした。
入院させると、医師だけが頼りと思ってしまい、医師の対応に疑問を感じても、従うしか選択の余地がないように感じてしまいます。
もし、基準を知っていれば、それに照らし合わせて、コウに対する処遇に対して、担当医にもっと十分な説明を求めていたと思いますし、その説明の内容によっては、処遇の改善を要求していたかもしれません。
例えば
身体拘束の対象には、ア、イ、ウがあるが、どれに該当するのか、
コウの行動が何故それに該当するのか、
コウの身体拘束は、制裁や懲罰などの意味合いは本当にないのか、
別の方法への切り替えについてどのように考えているのか、
身体拘束を行った期間の長さは本当に妥当なのか、1日2日で後は隔離に切り替えても良いのではないか
とか・・・
ただ、このような主張しても、処遇が変わるかどうかは分かりませんが、説明責任だけでも果たして欲しいものです。
身体拘束が行われた患者数は、コウが入院していた2010年には8930人でしたが、それからも毎年増え続け、2013年には、1万人を超えて隔離が行われた患者数を上回ったそうです。