青春49切符 | 山口粧太オフィシャルブログ『東京生活』

青春49切符


野比海岸の隣の家の奥さんに、「ずいぶんと陽に焼けてません?」と言われて気が付いた。そーいえば今朝から顔と手の甲がヒリヒリしている。

F.Bに載せたのは木曽路だった。
あれから一度、新幹線で東京に行き、今度は車を転がして名古屋に戻った。
まずは名古屋で86さんに、しゃぶしゃぶ肉と豚カツを無理やり食わせた(身体が軽いわ~と調子に乗ってウォーキングの距離をドンドン延ばした86さん、70kg→50kgにまで痩せてしまったのだ)。

んで、裏庭の納戸の解体を頼もうと業者に見積もらせたら、53万円掛かると言われたので、



「このボロ納戸の解体が53万円?じゃあ自分でやるわ」
とチマチマバキバキウイーンウイーンとバラしていると、また東京に呼ばれ、金は無いが時間だけはたっぷり余っているのと、
空が青いので…

バイクで行くことにした。例の125cc。

ご存知かと思うが、125ccのバイクは高速道路を走れない。よって、いわゆる下道(シタミチ)を延々と行かなければならないのだ。
スマホのナビを起動させると、距離は354km。
ちょいちょい渋滞アリで、約8時間掛かりまっせ!と表示された。
まあ途中で心が折れたら沼津の小野さんちにでも泊めてもらうか、と相変わらずの行き当たりばったりでエンジンを点火させた。

家から見える名古屋城に無事を祈願し、木曽路の終点の熱田神宮まで国道19号を南へ下る。
そしていよいよ東海道(1号線)に合流だ。
助さん格さん、いよいよですぞ。

ウチの墓のある有松を抜け、岡崎、豊橋を過ぎれば静岡県だ。

お、右手に海が見えてきた。浜名湖も近いぞ。
そーいえば、ウナギもしばらく食ってねーな。ウナギパイ屋はどうやってヤリクリしてんだろ?と余計なお世話を焼いていると、大きな標識が視界に飛び込んできた。

 *この先、自動車専用道路。125cc以下の原付車両は走行不可*

フン、と特に気にせずやり過ごしたのだが、専用道路に入った所で、

あれ、125cc以下。
以下?
以下は125ccも含まれるよな、未満じゃないよな。

と、小学校の立川先生に叩き込まれた(ホントよく叩かれた)、“以下と未満”の違いを思い出した。

でも原付って50ccの事じゃん…。 
ん?でも、保険屋のタケシがこの前電話で、125ccのバイク保険は原付特約だから、どうのこうの言ってたな…

あ、
そうだよ!125ccは原付扱いなんだよ!

と、ようやく正解に辿り着いたが、ここは既に専用道路。
ちょいとUターンという訳にもいかない位の車両の多さとハイスピード。

やっちまったなあ… 
まあでも浜松までのバイパスだろうから、この先10kmぐらいか?そこまで警察に会いませんように…

と、なるべく存在を消すよう隠密の心持ちで前進を続けると(あれ、黄門様じゃなかったの?いや、俺は弥七ですぜい)、次の標識が見えてきた。
“道の駅”なるパーキングエリアがあるらしい。
存在は消せても(消えるか!)、腹は減るので、ここは落ち着いて再考してみようと決め、道の駅にお邪魔した。

太平洋を眺めながらシラス丼を食べ、スマホでこの道路を検索すると、

125ccは走れません!罰金は7000円です!

と、ヤフー知恵袋が教えてくれた。
うーん、有料道路じゃないから来た道に戻ることも可能だが、この先8kmぐらいだから暴走するか?。

駐輪場へ戻ると多くのバイクが留まっていた。
125ccは…やはり1台もいない。ポツンと控える俺のバイクは、まるでペット売り場の隅にいるハムスターみたいだ。
心無いドライバーに既に通報されている可能性も無くは無いので(よく言うわ)、警察がいないかどうかを確認してみた。どうやらそれは無さそうだ。

しかしだ。
俺の125ccのまわりに若い兄ちゃん達がたむろってる。
皆金髪、革ジャン。それぞれが自分のバイクを自慢しながら楽しそうに騒いでいる。
他に人もいないので、この兄ちゃん達に話しかけてみた。

「ひかえろ、ひかえおろう!」
と言いたかったが、村人役しかやった事がない俺なので、
「すいません、この道は125ccは走れないんですか?」とリーダー格に切り出すと、

「あん?125cc?」
「このバイクでなんですが」
「高速道路じゃねえから、いいんじゃねえすか?」。
すると別の兄ちゃん達が、「あれ、125以下はダメって看板出てんじゃね?」「そうだよ、ダメだよ」。
リーダー、「大丈夫っすよ、俺のバカな後輩は原付(50cc)で飛ばしてますから」
すると別の兄ちゃん達、「あいつ、でもそれで事故ったんじゃね?」「そうだよ」。

思わず俺が、「事故った」とリーダーに訊くと、
「この道路は、お巡りは少ないけど、風が無茶苦茶強いんすよ。それに飛ばされちゃって」。

仮面の忍者・白影さんの様に空を飛ぶつもりは無いので(わかんねんか)、「じゃ、戻ったほうがいいですね」と俺が言うと、
「どこまで行くんすか?」と今度がリーダーが俺に訊くので「東京方面」と答えた。
すると3人が125ccのナンバーを見つめ、

「新宿?」「新宿」「新宿う」。

そう、未だナンバープレートは新宿区のままなのだ。
行く先は本当は横須賀なのだが、新宿区の3文字に何故か感動している様子だったので、
「そ、歌舞伎町だ」と煙草に火を点けながら小沢さん風に言ってみたら、

「すげ」「マジ」「カブキチョウ…」。

彼らの呟きが、煙草の煙と共に、強い風に消されていく。 イイネ! グッド!

「じゃあ、来た道を戻るわ」と俺がバイクのほうに歩き出すとリーダーが俺の行く手を塞ぎ、
「戻るよりか進んだほうがいいすよ。500mぐらい先に降り口がありますから」
と、真剣な口調で言い放った。

確かに2km逆走するよりは、リスク1/4の距離だ。

「そうか…じゃそうするよ。ありがとう」

俺は漆黒のフルフェイスを被り、エンジンをかけた。そのエグゾーストノイズに驚いたのか、風が止んだ。
うそ。
半キャップだし、ノーマルマフラーだし、125だし、やっぱ風強いし。

兄ちゃん達の横をゆっくり125ccで走りだすと、リーダーが、
「頑張ってください」と俺に言った。
なんだか解からないけど、何故かグッときた。
それは多分、言葉に嘘が混じってなかったからだろうか。

すぐに降り口があった。お巡りにも遭遇しなかった。ほっ。

掛川を過ぎたあたりから信号が無くなった。
1号線だから終始、街々の連続=信号の連続だろうと考えていたので、これは以外だった。
山道こそ少ないが、延々と野山の風景が続くのだ。富士山に引き寄せられながら。

箱根の手前で給油し、上着がわりにに合羽の上下を着込み、やや痺れを感じる両手に息を吹きかけ、いよいよ山を攻めた。誰よりも早く、鋭く。
うそ。
攻めるにも、125ccなので上りの速度は50kmが限界。
辻やんが前に言っていた「怖がっちゃレーサーになれないよ」という言葉を思い出したのだが、俺が怖いのはカーブよりも、ミラーで確認する間もなく突如現れ、真横を追い越していく大型のバイク達だった。ファオーーン!キーーン!ブオオーン!
負けるもんか!ププププッ!

箱根の山を下りかけると、急に車が増えてきた。
そして、とうとう渋滞が始まった。
先程の大型バイク達も道幅が狭い為、すり抜けに苦労している。
形勢逆転。

どけ!邪魔なんじゃボケ!(でも渋滞抜けたら逆襲に遭うので、そっとかわしました)。

山が終わると、ようやく神奈川県に突入。
疲れも無いし、バイクも快調だし、この分だと陽が沈む前に到着出来そうだし、
よし、ラストスパートだ!

湘南も鎌倉も道はすごく混んでいたが、125cには関係ない。すり抜けすり抜け俺様が行く。
何度も走った事のある海岸線を左方向に離れたら、もうすぐ横須賀だ。

沈む夕陽を右手に見ながら、横須賀の山々を登ったり降りたりして、とうとう野比に到着した。
10時間が経過していた。
ツタヤ野比店に入りトイレを借りた。鏡を見ると、顔が赤黒く焼けていた。
お、この顔は…

助さん格さんではなく、やはり村人だった。

……
おまけ。
86さんが出かけに心配していたので電話を掛けたが、留守電だった。
3日後、再び名古屋に戻ると、タウン誌がポストに刺さっていた。



記載の住所はウチとまったく同じ。86さんの漢字も同じ。
おとうさん犬、旅に出たか?