49th | 山口粧太オフィシャルブログ『東京生活』

49th

特にお知らせやお伝えする事もないのですが…

えーと、名古屋の家は4つ目の部屋を完成させ、今はキッチンを手掛けています。
野比海岸の家の倉庫に眠っていたアメリカ産の素敵なブルーのペンキを勝手に拝借したので(家主には内緒ですぞ)、配色を間違えなければ、70年代の映画スターたちが喜びそうな、そして骨董のケトルが心地良く腰掛けそうな、そんな懐古的なキッチンが出来上がる予定です(まあ元々古い家というだけかも)。

伯母が亡くなって一年余りが経ちましたが、家の中身はすっかり変わりつつあります。
使わなくなった物たちが処分され、大量のペンキが壁や天井に塗られ、畳が、エアコンが新調され、掘りごたつが床下に収納されました。
仏間も一周忌に間に合わせるべくリメークされ、気持ちよく親戚を迎え入れる事が出来ました。フー‥。

ウチの親父、ハチローさんの兄たちを喜ばそうと思い、古い古い沢山の写真たちを拡げました。
「初めて見る写真ばかりやなー」「これは最初に買うた車やで」「これは早くに死んだ四男やなー」「この写真は持って帰ってええか?」と、会話は尽きる事がありませんでした。そんな中、ゼンロク伯父さんが、

「でも、この家は空襲で全焼したのに、何で戦前の写真が残っとるんやろ?」

するとコウゾー伯父さんとハチローさんが、

「親父が仏壇と一緒にリヤカーに乗せて疎開したんやろな‥」

少しだけですが、部屋をいじらないほうが良かったのかも‥と思ってしまいました。
砂壁も、大きな本棚も、脚の汚れが染み込んだ階段も、全部俺が無くしてしまったのです。
そして、せめて、伯母が生きているうちに、どうして綺麗にリフォームしてあげられなかったのだろう‥


うーん‥


人の想いは身勝手で、そして複雑ですね。

……
そして野比海岸ですが、二週間ほど前に来てみると、表の看板の一部が‥

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俺が使わせてもらっている部屋のベランダに落下していて、手作りの流し台に見事に突き刺さっていました。
アウトレージの仕業か?とも思いましたが、どうやら看板のビスが錆びてフレームが外れ、アクリル板だけが落ちてしまったようです。
家主にLINEすると、
 
 撤去しちゃってー

と返事が即座に送られてきました。
 
 わかったー

と返してみたものの、この看板、4mもある厚手のステンレス製なので滅茶苦茶重いのです。とても一人じゃ無理なので、困ったときのイソベ電気、地元の磯部君を呼び出しました。
電球と器具を外し、

「粧太さん、持ち上げますよ、いいですか」「よっしゃ」

柵に留めたボルトを抜いて、

「せ~~の!」

「うおっ…」


「お、お、おもーーーーっ!」


俺たちは泣きそうな4mの距離で見つめ合うのですが、助けはいない。誰も、いない。手を離せば、またしても。ベランダに落下。

どうする‥ どうしようもない。

俺たちは片足を柵の外に踏み出し、もう一度両手を握り直して、

「いくぞ磯部!」
「は‥はい!」

「せ~~~~の!!」

ゴリ‥ゴリゴリと、壁を引き摺って看板は上昇しはじめました。

「うりゃー!」

まさに火事場の馬鹿力とはこの事。一気に柵の内側に投げ出す事に成功しました。
その場にヘたれこんだ俺たちは息を整え、無謀な挑戦を成し終えた喜びと、看板もろ共落下していたかも‥という恐怖に暫しボーとしていました。

「磯部、こんな重い看板どこで仕入れたの?」
店のオープン時に取り付けたのも、この磯部君だったのです。

「これですか?これはヒデさんがネットオークションで買ったらしいんです」
「え、ヒデなの?」
「はい。届いたらとんでもない重さだった事を‥今思い出しました」
「勘弁してーな」

とりあえずは、なんとか、49回目の誕生日を迎えられそうです。

……
おまけ。

さっき陽が落ち始めたころ、いつもはバイクで行くホームセンターに、たまには歩いて行くか‥と思い海辺をフラフラしていると、正面から一人の老婆がやはりフラフラとこちらに向かってきました。
よぉく見ると、その老婆は俺が借りている駐車場のオーナーで、歩いている姿を見かけるのはこれが初めてだったのです。

「こんにちは、山口です」と声を掛けると、
「あら山口さん!‥偶然って無いって言うけど」
「は?」
「最近あなたを見かけないから、病気でもしてないかと思って住所を頼りに尋ねていく最中だったのよ」
「え、そうなんですか?」
「偶然って無いって言うけど‥これは必然なのかしらね」

48歳と90歳の二人を、穏やかな波の囁きが包みました。 失礼、ゴホッ。

それから俺たち二人はホームセンターまで散歩をし、老婆が素敵ねと言った鉢植えを買って、そやつをぶら下げ帰路の丘を登って帰りました。

「せっかくだから、地面に植えようか」と俺が提案すると、老婆はおおはしゃぎをし、
「いい記念になるわ。山口さんとデートした」と、シワシワになって笑いだしました。

見上げた空の月も、やっぱり笑っていました。

 婆ちゃん、いつまでも、元気でね。

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