西尾市のまっちゃ | 山口粧太オフィシャルブログ『東京生活』

西尾市のまっちゃ


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メロンシェイクと豚バラ丼。

愛知県中南部の一色町は、うなぎの生産量が日本一である。
その一色町がある西尾市は、抹茶の生産量が日本一である。
なのでこれらはシェイクに見えるが抹茶であり、スタ丼にも見えるが実はうな丼なのである。


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元芸人の奥谷(オクヤ)陽一郎。芸名は奥谷まっちゃ。
スラリ背が高くイケメンであるが、実はひどい有様であった。5年前までは。

奥谷は6年程前に俺の元に流れ着いた。
飯を食わせ、バイトを紹介し、ネタ作りを応援した。
現実の厳しさと家の事情とが重なり、5年前に所属事務所を辞め、奥谷は故郷の西尾市に帰る決断をした。知人が地元西尾市の観光事業の仕事を紹介してくれたのだ。
幼い頃から奥谷は、お笑いと番組と、それ以上に世界遺産の番組を夢中になって見ていたという。
「芸人じゃなければ、迷わず旅行関係の仕事に就きたい」と常々言っていた奥谷に、新たな切符が舞い込んできたのだ。

「粧太さん、俺、田舎に帰ろうかと思います」
「ん、どうした」
「地元の観光の仕事を紹介されまして」
「へえ。芸人は辞めるんだ」
「は、はい。続けたい気持ちもあるんですが」
「しゃーねーやな。もう決めたんだろ?」
「迷ってます」
「ちがうな」
「は?」
「迷ってるって事は、もう腹は括っていて、誰かに後押ししてほしいだけなんだよ」
「はあ」
「いいじゃねえか。やりたいんだろ?知り合いが手助けしてくれたんだろ?応えてやれよ」

こんなやりとりの、次の春の少し前、奥谷はカバンを抱え故郷へ帰っていった。

俺はといえば、風呂敷を広げっぱなしの東京生活が30年にもなろうとしている。
以前のブログ『47th』で紹介したOnoさん程ではないが、若い才能に出会う事もいくつかあって、奥谷もその一人だった(もちろん奥谷はNYの逃げ組小僧たちではない)。
夢半ばで行先を変え、もう半分の夢に歩き出した奥谷。「達者でな」と、手を振る事も無く別れたのが5年前だった。

そんな奥谷から10日ほど前に突然電話がかかってきた。

「粧太さん、奥谷です」
「おー元気か。どうした。西尾市が世界遺産になったか」
「いやー厳しいっす。抹茶とうなぎとトヨタしかない街ですから」
「ははは」
「ところで来週ですが、東京都庁に行くんですよ」
「何しに?」
「抹茶とうなぎのPRで、都庁で出店するんです」

と、ようやく写真の真相に辿り着いた。

一色うなぎは有名で、産地偽装のニュースが少し前に流れた事を憶えている方も多かろう。
今回のイベントでも販売されたのだが、かば焼きは、開店前から並んだお客さんにアッと言う間に買われてしまったらしい。

「奥谷、うなぎもう無いの?」
「全部売り切れで、冷蔵のひつまぶし用の細かく切った物ならあるんですけど」
「それでいいや。でも‥ここでは食べれないか」
予想に反して食べる施設は見当たらなかった。残念。
「大丈夫っす。裏の準備室にレンジがありますから。あ、ご飯が無いか‥」
すると、お手伝いさんの太田プロの信江勇ちゃんが、
「あたしも食べるんでー、コンビニ行ってきまっすよー」と、ニコニココロコロしながらライスを買いに行ってくれた。

「山口さーん、出来ましたよ」と、勇ちゃんが手招きしてくれた。スタッフ面して準備室へ入る俺(ホント図図しいなあ)。すると奥谷が、「自慢の抹茶です」と、ひんやりとした柔らかな表情の抹茶を出してくれた。早速一服。

「いやあ美味しいなあ。生クリームでも入ってるの?」
「いえいえ、水だけです」
「フワフワじゃん」
「シェーカーで振るんです。簡単でお奨めですよ」
「シェーカーか、なるほどね」

チン!とレンジが鳴り、勇ちゃんが自分のライスを取り出した。二人でひつまぶしに手を合わせ、「いただきまーす!」。
こんな場所で、こんな連中と、こんな時間を過ごすのが、俺は好きだ。

「奥谷、いい顔になったな」
「え、だいぶ太りましたよ」
「ネタ考えていた顔とは随分違うよ。生き生きしてる」
「ありがとうございます。抹茶は宇治が超有名ですけど負けませんよ。日本一、世界一にしますから」
「あ、奥谷の芸名の『奥谷まっちゃ』って、ここから取ったの?」
「えー、言いませんでしたっけ!相変わらずテキトーっすね粧太さん!」
「ははは。全然知らなかった!」

「奥谷さーん、あなたにまたお客さんですよー」と会場からお呼びがかかった。「はーい」と慌てて席を立つ奥谷。
俺と目を合わせた勇ちゃんは、左手に大事そうに、大きなフランクフルトを持っていた。
「へへ。あたしウインナー好きなんすよ。事務所から痩せろって言われてるんすけどー、食べちゃうんですよねー」。

東京在住組も奥谷に負けず劣らず、ある意味生き生きとしている。
どうやら俺と勇ちゃんのポケットには、片道切符しかないようだが。

……
おまけ。
奥谷は趣味で演劇を始めたらしい。「面白いか?」と俺が訊くと、「稽古が3か月間ですよ。田舎ですからのんびりなんです。フ~ッ」だって。頑張れよ、まっちゃ。