洋裁系男子、ひやかす | 山口粧太オフィシャルブログ『東京生活』

洋裁系男子、ひやかす


Window-shoppingは和製英語ではなく、英単語として辞書にある。
この和訳はというと、なんとそのまま、ウィンドーショッピングと記してある。
若い頃、憧れのブランドショップのディスプレイを通りから眺め、ため息でガラスを曇らせながら、

来月のアルバイト代が入るまで、どうか売れませんように‥

と、真面目に懇願したものだ。
ところが歳をとると、ウィンドーショッピングは、和訳を改め、冷やかし となる。
短パン、ランニング、雪駄履きのいでたち。とどめのコンビニ袋を右手にぶら下げ、「ごめんよ」と、蕎麦屋にでも入る勢いで、高級な絨毯に脚を踏み入れる。
わずかに眉間に皺を寄せる店員さんも、そこはさすがにプロ。すぐに上出来の作り笑顔を厚化粧に貼りつけ近寄ってくる。

「何かお探しでしょうか」
「いいねえこれ。ちょいと見せてくれる。それじゃないよ、隣の黒いやつ、そうそれ」
「御試着もできますので」
と、言われる前から、コンビニ袋を地べたに放り投げ、さも当然の如く我が身に装着する。

「良くお似合いでございます」
「ありがと。いいねえ」
「最後の1着でございます」
「あそう。でも俺にはワンサイズ大きいなあ」
「それでしたら、他店に問い合わせる事ができますので」
「この黒、いいんだけどさ、この辺のデザインが残念だなあ」
「今年のトレンドでございます」
「若い人には似あうんだろうけど」
「いえいえ、御年輩のかたの御購入が多ございます」
「何言ってるのよお姉さん、俺は若者だよ」
「失礼致しました。そのようなつもりでは‥」
「あはは冗談冗談。まあ、また来らあなあ」

冷やかしどころか、嫌がらせである。

さて‥
次に冷やかした先はというと、

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毎度おなじみ、エツコ先生のミシンスタジオである。
ところが今日はいつもと様子が違う。ご覧の通り、なんと生徒は男ばかりであった(長い髪の女性は2代目のタレメ先生)。
御用聞きの酒屋の如く気まぐれに現れる俺に、タレメ先生も慣れたもので、「あらいらっしゃい」と休憩を兼ね、煙草片手に表に出てくる。

「今日は男ばかりで、もててるねえ」
「一人は下着のデザイナーさんで、もう一人はゴンドラに乗る窓清掃の職人さん」
「ほう」
「デザイナーさんは試作品の相談で、職人さんはモップの改良に取り組んでるのよ」
「なるほどねえ。いろいろ需要はあるもんだ」
「ね。帰ったら子供たちに自慢しよ」
タレメ先生はエツコ先生の御嬢さんで3児の母。長女は美人の高校生で、俺との仲を怪しんでいる。

「ところで今日は何か御用かしら」
「うん。バッグに穴が開いちゃってさ」
コンビニ袋から出てきたのは、ズタボロの肩掛けバッグ。
「チャカッチャカッと縫っちゃおうと思ってさ」
「刺繍なんかはどう」
「刺繍?」
「こんな感じで」と、パソコン画面に現れたのは‥

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最近のミシンはこんな事も簡単に出来るのだ。

「へえ、すごい!手ぬぐいなんかにも縫えるよね」
「もちろん」
「縁日に露店で売ったら流行るんじゃない?」
「そうかなあ」
「寅さん風の口上でさ」
「映画の寅さん?」
「そう。寄ってらっしゃい見てらっしゃい。そこの粋なお姐さん、冷やかし上等こっちへおいで。愛しい人の名を浮かべ、ちょこっとペダルを踏んでごらんよ。ほうら、もう出来ちゃった」

冷やかしが、今度は押し売りになるという、相変わらず馬鹿馬鹿しいお話でした。