おてんと様に訊いてくれ(生活保護の巻)
- 落語 『長屋の花見』から -
「たなちん?大家が店賃(家賃)をどうしようってんだ?」と、店子(住人)の金こうが月番(長屋のリーダー)に尋ねると、
「どうしようって、決まってらぁな。みんなから店賃を取ろうってんだ」
「大家が?そりゃあ、図々しい話だ」
「図々しいって事はねぇ。‥しかしなんだなぁ、大家が催促をするからには、みんな相当に溜めてるんじゃねぇかと思うんだが‥ どうだい、留さんなんか?」
月番が、同じく長屋の住人の留さんに訊くと、
「いやぁ、面目ねぇ」と、留さん。
「面目ねぇ?なんてところを見ると、あんまり持ってってねぇな?」
「いやあ‥それがね、ひとつ持って行ってあるだけに、面目ねぇ」
「それなら何も『面目ねぇ』なんて事はないよ。店賃なんてモノは、毎月ひとつ持っていきゃあ、それでいいもんだ」
「おめぇそりゃ‥毎月ひとつ持ってってりゃ、誰も面目ながりゃあしねえやな」
「そう云やそうだ。え?じゃ何かい?半年前にひとつくれぇか?」
「半年前なら大威張りだ」
「一年前か?」
「一年前なら面目なくねえや」
「三年くれぇ前か?」
「三年前なら大家の方から礼にくらぁ」
「来やしないよぉ。じゃあ、留さんはいってぇ、いつ持ってったんだい?」
「まあ、月日の経つのは早ぇって云うが‥あれは俺が、この長屋に越して来た月のこったから‥指折り数えて十八年くれぇになるかな」
「十八年?仇討ちじゃないんだよ」
……
「大家と言えば親も同然。店子と言えば子も同然」という台詞が、落語にはホントよく登場する。
梅干しババアを長屋に残し、息子が遠く奉公に出ても、大家と長屋の連中が、梅干しババアの世話を焼いてくれる。息子が達者で暮らし、立派な男になってくれる事がみんなの願いだ。
かといって、息子の出来が悪くったって、金こうや留さんが、処世術とやらを教えてくれる。大家も口うるさくそれを見守る。苦虫を噛みながら。
時代は江戸から明治、大正、昭和、平成へと移り、街も長屋の様子も変わってしまった。
雨風が凌げて、飯が食えて、たまに旨い酒を、仲間と囲む事が出来りゃあ幸せだった筈が、今じゃ、エアコンが無ければアスファルトの世界では耐えがたく、飯にはまた税がかかり、酒を飲めば愚痴ばかりで喧嘩は御法度。
心がひとりぼっちになっちまった梅干しババアは、役人に相談するが、役人は忙しすぎて、手も口もまわらないから、お上の銭を投げつけて追い返す。
息子はといえば、うるさい長屋から解放され気ままに生きている。誰からも詮索されず、検索を楽しむ毎日。そんなある日のこと、SNSに沢山のレスが‥
- 金こうや留さんは負け組。銭儲けの達人だけが立派な男! -
……
- 『その後の花見』粧太作 -
「人の事なんざぁ知ったことか。おらぁ突っ走るだけよ」
「転んじまったら、どうするんでぃ?」
「そんときはぁ、謝まっちまうよ。ちょいと涙を見せてな」
「泣くって、おめぇ男だろ」
「大店(おおだな)の主だってそうしてるし、流行りの処世術本にも書いてあらぁな」
「たまげたねぇ。ところで謝る謝るってぇ言うが、誰に謝るんでぃ?」
「それが解からねえから泣くんじゃねえか。ま、おてんと様に訊いてくれ」
……
この前、竹下通りで変なホモ男に褒められた、シナの今年のTシャツたぜぃ!
一番の放蕩息子、ここにあり。
許せ墓場の梅干しババア。泣くに泣けない我が親子。おそまつ。