2010のこと その1 | 山口粧太オフィシャルブログ『東京生活』

2010のこと その1

 -ブルドッグスのこと-

昔の不良漫画では、校舎裏に呼び出された少年がよくボコられていました。
ここは学校ではないのですが、私は野球場のベンチ裏で取り囲まれていました。宿敵ブルドッグスの面々に。

「粧太さん、今日、わかってますよね」
本宮泰風くんが爽やかに語りかけるのですが、その目がちっとも笑っていません。

「え、なんのこと?」と、背の高ぁい泰風くんを見上げました。すると泰風君が、

「おっと。へえ。そうですか」
人を殺(あや)める直前の、いつもの泰風くんの台詞が出てしまいました。彼の黒目が小さくなったので、間違いありません。

「俺、急ぐから」と、私は慌てて右足を軸に体を反転させたのですが、そこには山口祥行くんが金属バットを肩に担いで立っていました。退路は既に塞がれていたようです。

「あにき~、粧太さんが~、なんか言ってますよ~」と、祥行くんはニヤニヤしながら明後日の方を見つつ、唾を吐き捨てました。
そしてその、あにき~ 声は、どうやら泰風くんにではなく、もっとヤバイあにきに掛けられたようです。
そう、泣く子も黙らず、もっと泣く。あるいは死。そんな、小沢仁志のあにきに。

輝いていた太陽が黒い雲に覆われました。風が止みました。鳥が音速で去って行き、その羽音が小さくなり、入れ替わりに耳に響いてきたのは、

カチャ‥ カチャ‥。スパイクの金属音。

アスファルトを削りながら私に近づいてきて、あと3歩で、あと2歩で、あぁ踏み潰される!
しかし根が生えてしまったかのように、私の足は動きません。そしてとうとう必殺の1歩が!!
なんとか目を閉じずにいられたのは、私にも最期の意地があったからです。
その潔さを認めたのかどうかは解かりませんが、泥だらけのスパイクが急に速度を緩め、ゆっくりと私のスニーカーの上に着地しました。眠った赤ん坊に毛布を掛けるように。
しかし、スパイクの刃は囁いています。「動けば、死ぬぞ」と。

灰色のユニホーム。黒い帽子。咥えた煙草。鬣(たてがみ)の如く風に揺れる後ろ髪。
まさに、正真正銘の、O・ZA・WA だ。

「おぉ‥ 粧太‥ 試合‥ でろよ」
あの声。酒焼けの、あの声。

「‥いや、今日はウチのチームは20人も集まっちゃって」
なんとか声を絞り出したのですが、

「なに?約束したんじゃねえのか泰風たちと。今日こそは試合に出るって」

今年は3戦目になるのですが、いつもメンバーが多いため、火野監督と私はいつも控えでコソコソしているのが通例になってしまっているのです。

「約束というか、その‥あの‥」

違う方向から 「ふん」 と、別の声がしました。小沢さんに負けず劣らずの周りを制するかのような声。しかしそれは静かで、鋭く突き刺す響きでした。
視線を向けると、やはりいました。寺島進さんが。あの、にらみで。

「火野さんは、今日はいないの?」

「ええ。急な仕事が入ったとかで…」

「ふ~ん。そう。よろしく言っといてよ」

「は、はい。よろしく言っときます」

そうなんです。ウチの監督は離脱中なのです。だからこそ、絶対絶命なのです。


~中略(ボコ!バシ!ウッ…)~


ウチのチームのキャプテンの一矢は子供が5人もいるくせに、脅しにはすぐに屈するタイプなので、試合途中から私をなんと、サードで登場させてしまいました。もちろん生涯初です。
敵チームから歓声があがりました。そして小沢さんの叫び。

「おお、全員、サードに打ち込めや!」

その後の展開は、もう思い出したくもありません。


……
鬱になりつつあるので、違う話を書きましょう。

 -バラカンさんのこと- 

数日前、音楽評論家のピーターバラカンさんの講演が法政大学でありました。
内容はイギリスにおける音楽と文化の係わり合いで、ご自身のiPodの曲を順に流しながらの楽しいお話でした。
今回は60年代が中心で、やはりイギリス発のビートルズの事は外せません。

「彼らはね、やんちゃだけど、憎まれなかったんですよ。それはねぇ、乱暴な発言をしたり、大人が嫌がるパフォーマンスも沢山したんだけど、いつも演奏の最後には、きちっと頭を下げて挨拶をしていたから。かなぁ」

例の独特の日本語が耳に心地よかったです。
聞きながら、ふと気付いたのは、私は多分この声が好きなんだということ。鼻にかかった静かな声が。
どこか大好きなジョントラボルタの声と重なるのです、私には。
バラカンさんはラジオの番組中でもそうですが、時々スイッチが入ることがあって、静かだけど熱いメッセージを発信することがあります。この日もそんな場面がありました。

「ルールはね、破るためにあるんだよ。まあ人に迷惑をかけない程度には、やるべきだと思います」

うむうむと同感しました。

が、あのチームには聞かせたくありません。聞かせちゃいけません。あれ以上ルールを破ると、まっとうな人類が破滅するからです。
ああ、また思い出してしまった。
ああ、泰風くんからメールが来てる。「おっと。へえ。そうですか」はもう止めてくれぇ!

くそう、今度ヤツらに会ったら…


速攻逃げてやる。


……
やはり話を変える必要がありますね。
そうだ、うれしい事を思い出しました。

 -ナルのこと-

以前このブログでも紹介した姪っ子のナルが、書で賞状を貰いました。

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毎日新聞社賞とやらで、数日間、伊勢神宮に飾られたそうです。
どうです、なかなか立派な字でしょう(やや男性的な印象は受けますが)。
流石は我が姪っ子。
そうだ、これを年賀状にしてブルドッグスのメンバーに送りつけてやろう。
これを読んで、心から反省してもらおう!

ああ、結局また思い出してしまった。


……
などと色々書きましたが、ほんとは仲が良いのでご安心を。

ブルドッグスの皆さん、今年はありがとうございました。
来年も沢山試合やりましょう。沢山飲みましょう。人に迷惑をかけない程度にね。

*ちなみに本年度の対戦成績は1勝1敗1分けでした。


……
追伸

 -傘のこと-

今朝の東京はバケツをひっくり返したような雨が降りましたが、昼には嘘のように晴れてしまいました。
事務所に例のバーニーズの傘を置き忘れ、駅から引き換えし、その後の世界堂でも同様で、家から自転車で取りに行く始末。
初老のボケかもしれないので、今度からは背中にくくり付けようかと思います。忍者赤影のように。
カッコいいし。強そうだし。ブルドッグ退治にも使えそうだし。ね。