静岡県で「クエタマ」という魚が養殖されていることを知りました。

クエとタマカイを掛け合わせた魚で、普通のクエより成長が早いらしい。

クエ釣りをしている自分としては、気になる話です。

そこで、ふと思いました。

「これを海に放流したら、クエ釣りがもっと盛り上がるんじゃないか?」

10kg、20kgという大型魚を狙える機会が増えるなら、釣り人としては夢があります。

もちろん、生態系への影響がないことが大前提。

そもそもクエタマは自然界で生きていけるのか。天然のクエは放流されていないのか。

気になったので、少し調べてみました。


■ クエタマってどんな魚?




クエタマは、クエの雌とタマカイの雄を交配させた人工交雑魚です。

近畿大学が2011年に作出に成功しました。

タマカイはハタ科の大型魚で、非常に大きく成長することで知られています。

そのタマカイとクエを掛け合わせたクエタマ。

最大の特徴は成長の早さです。

近畿大学によると、通常のクエと比較して約2倍の速度で成長するとされています。

クエは成長が遅く、養殖でも出荷サイズまで育てるには長い時間が必要です。

クエタマは、その課題を改善するために開発された魚というわけです。

最近では静岡県でも陸上養殖が行われています。

ただし、この成長速度は養殖環境での話。

天然の海でも同じように成長するとは限りません。

それでも、釣り人としては気になってしまいます。

「自然界でも大きく育つなら、面白い魚になるんじゃないか?」

そんなことを考えてしまいました。


■ クエタマを放流したら?

クエ釣りは、なかなか結果が出ない釣りです。

何度も磯に通い、仕掛けや餌を考え、潮を読みながらチャンスを待つ。

その先に大型魚との勝負があるから面白い。

とはいえ、魚がいなければ勝負にもなりません(笑)

もし成長の早いクエタマが自然界でも生き残り、大型化するなら、釣りの対象魚として新たな魅力が生まれるかもしれません。

ただ、ここには大きな問題があります。

クエタマは人工的に作られた交雑魚です。

養殖に適しているからといって、自然界に放流してよいわけではありません。

天然クエとの餌や生息場所の競合、周囲の魚への影響、病気や寄生虫の持ち込みなど、考えるべきことがあります。

また、クエタマに繁殖能力があるのか、天然クエとの間で繁殖できるのかについても、今回確認した資料では判断できませんでした。

仮に繁殖できなかったとしても、生態系への影響がなくなるわけではありません。

そして、もう一つ大事なことがあります。

クエタマが増えることと、天然クエの資源が増えることは別の話です。

釣り人としては夢がありますが、安易に放流するような魚ではなさそうです。

では、天然のクエはどうなのでしょう。

そもそもクエの稚魚を放流する取り組みは行われているのでしょうか。


■ 天然クエは実際に放流されていた

調べてみると、意外な資料が見つかりました。

水産庁が公開している「離島漁業再生支援交付金」の活動事例です。

島根県の隠岐諸島にある西ノ島町では、2021年度からクエの種苗放流が行われています。

2022年度からは、放流した魚を識別するため、ヒレの一部を切る標識付けも始められました。

放流した魚が実際に漁獲されているのか。

その効果を調べるための取り組みです。

クエの放流という話は、これまであまり耳にしたことがなかったので、少し驚きました。

さらに興味深いのが、同じ資料に掲載されているクエの漁獲量です。

【西ノ島町のクエ漁獲量】

2020年度 1,000.2kg
2021年度 640.8kg
2022年度 766.7kg
2023年度 862.0kg
2024年度 1,295.9kg

出典:水産庁「離島漁業再生支援交付金 第4期対策活動事例集」

2020年度と2024年度を比較すると、約30%増加しています。

2024年度の漁獲高も473.6万円となっていました。

ただし、この増加が放流によるものかは分かりません。

天然資源の変動や漁獲状況など、さまざまな要因が考えられます。

放流した稚魚が何尾生き残り、そのうち何尾が漁獲されたのか。

今回の資料では、そこまでの結果は確認できませんでした。

数字だけを見て放流の成果と判断することはできませんが、実際にクエの資源増殖に取り組んでいる地域がある。

これは釣り人として興味深い話です。


■ 放流すればクエは増えるのか?

マダイやヒラメの稚魚を放流する話は、ニュースなどでも見かけます。

では、クエも同じように増やせるのでしょうか。

近畿大学では、クエの人工ふ化や種苗生産に関する研究も行われています。

つまり、天然クエの稚魚を人工的に生産する技術自体は存在しています。

ただ、稚魚を生産できることと、放流によって天然資源を増やせることは別です。

放流した稚魚が外敵から生き残れるのか。

十分な餌を確保できるのか。

成長して繁殖に参加できるのか。

さらに、放流する魚の遺伝的な特徴が、その海域の天然資源に悪影響を与えないかという問題もあります。

放流には費用もかかります。

その費用に見合う効果があるのかを確かめることも必要でしょう。

今回調べた範囲では、クエの放流が全国でどの程度行われているのか、全体像までは把握できませんでした。

ただ、西ノ島町のように実際に取り組んでいる地域があることは確認できました。

今後、放流したクエの生残率や再捕率などが明らかになれば、資源増殖の可能性も見えてくるのかもしれません。

また、天然クエを守る方法は放流だけではありません。

産卵する親魚の保護や漁獲管理、生息環境の保全なども大切です。

漁業者や研究機関、行政など、さまざまな立場の人たちが関わる話でもあります。

釣り人の立場から簡単に「放流してほしい」と言えるものではないのでしょう。


■ クエ釣りの未来に期待したい

今回、クエタマという魚を知ったことから、天然クエの資源増殖について調べることになりました。

最初は、成長の早い魚を放流できれば面白いんじゃないか、という単純な発想でした。

調べてみると、養殖技術と天然資源の管理は別の話。

クエタマを自然界に放流することには、生態系への影響など、慎重に考えるべき問題がありました。

その反面、天然クエの種苗を放流し、資源を増やそうとする取り組みが実際にあることも知りました。

自分もクエ釣りをしていますが、そう簡単には釣れません。

大きなクエを狙って磯に向かっても、何事もなく朝を迎えることがあります。

道具を片付けながら、また次こそはと思う。

そんなことの繰り返しです。

それでも、いつか大きなクエを釣り上げたい。

そして、これから先もクエを狙える豊かな海が続いてほしいと思っています。

養殖や種苗生産の技術が進歩し、天然資源を守る取り組みにも生かされていく。

そんな未来には期待したいですね。

まずは自分のクエ釣りにも、少しは成果が出てほしいところですが(笑)


【参考資料】

近畿大学「近大クエタマ」
https://www.kindaifish.com/picturebook/kindaikuetama/

水産庁「離島漁業再生支援交付金 第4期対策活動事例集」
※西ノ島町全域漁業集落「キジハタ・クエの種苗放流」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/bousai/gyoson/ritoukoufukin/attach/pdf/index-25.pdf

全国豊かな海づくり推進協会「栽培漁業について」
https://www.yutakanaumi.jp/saibai/saibai_01.html