グラム・ロックの熱い夏から50年 | マノンのMUSIC LIFE

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197276日デヴィッド・ボウイはBBCTop Of The Pops(TOTP)でこの曲を披露して全英を魅了。キレイに磨かれ過ぎだけど、50年前のロックの転換点、その日の映像ですよ。

 

DAVID BOWIE - Starman (Top Of The Pops 7/6/1972)

日本盤シングルの発売は825日らしいので、この時代にしては最速。ビクターの担当ディレクターも早めに手を打ったのでしょう。

私もミュージック・ライフ(ML)のこの号を買って隅から隅まで読みつくしました。

発売されたのはたぶん8月なので、なにもわからないながらもさぞや熱い夏だったことでしょう。あの頃は真夏に暑いっていってもたかだか31℃とかだったけど。

 

表紙はボウイですが巻頭はマーク・ボランのインタビューだし、むしろ主役はT・レックス。九州のラジオで初めて曲を聴いたのもちょっとだけ先だったと思う

洋楽初心者の私でも「なんじゃこりゃ?」って思うような他とは違う感があった。3音だけの下降リフにヘンな歌。メロディ以外の裏返ったり、「ハッ」とか「あ~ん」とか吐息みたいな部分が主役みたい。

 

T.REX - Metal Guru (TOTP 1972)

さすがに単純すぎない?と思ったけど、こんなの序の口だった。次の「Children of the Revolution」はほぼ2音反復。そして、その冬に出たのがこちら。

 

T.REX -  (Solid Gold) Easy Action (1972)

Aメロはワンコードで歌はテキトー「ジャカ・ジャカ・ジャカ・ジャカジャ♪ヘイヘイヘイ」だけで成り立ってるイージーにもほどがある曲。ストーンズに対する7年後の返歌?

ギターにELOのジェフ・リンが参加してるというのは今回、初めて知りました。低音のリフか、高音弦の方かわかりませんが、この感じを出すのはなかなかにムズいのです。

今回はファッションが重要なだけに、実際にどんなステージ衣装でやってたのかを見ていただくため、MVではなくTV出演やライブ動画を中心にご紹介していきます。

ML10月号のP.152「ロッカーズ・ファッション/T.レックス」というページには女物のハイヒールやシャツ着用で「これが最先端!」というイメージで載っていました。

日本にはそこまで伝わってなかったと思うけど、グラムロックのイメージには「キャンプ感」というのがベースとしてあって、お化粧・女装・スパンコールにしても洗練を志向するものではなく「フェイクかつチープ」であることが特色ということらしい。

それはドラァグ・クイーンに行きつくような方向性ですが、既存の枠組みをはみ出そうとすることこそがキモであり、重要なのは「やりすぎ感」なのです。

 

この春にユニオンで、こちらの2冊を見かけて即購入。それぞれ2005年と2012年の発行ですが、改めてグラムとパンク、モダン・ポップ、そして「キャンプ」について認識を新たにしたわけです。

 

さぁ「やりすぎグラム画像」をいくつか見ていただきましょう。まずはサンフランシスコのチューブス。やりすぎハイヒール。

お次はイーノの羽根つきジャケットをもっと進化させたかのような当時のトッド・ラングレン。音はグラムっぽくないけどチューブスのプロデュースをやったこともあるし、なにごとも「やりすぎ」る人なのはフジロックでも証明済み。

ボウイはグラム前夜のロングヘアの頃にジャケ写で完璧なお姿を披露済みだったわけですが、これは普通に美しすぎてキャンプ感はナシ。それでも女装というだけで当時はグラム期のモノクロ写真に差し替えられた、そんな時代。

何をやっても洗練の方へ向かってしまう彼が、73年には早くも「ジギー辞めます」宣言をしてグラムからイチ抜けしてしまったのは、当然の帰結なのかも。

ボウイ史上いちばんのやりすぎはこのコスチューム。当時の私もちょっと「ゲッ!」と思ったくらい。

 

モット・ザ・フープルなんかもグラムの代表のひとつとされてますが、解散寸前のところにボウイから曲をもらって大ヒット、その後、ミック・ロンソンと行動を共にした人脈要因が大きいと思います。

カーリーヘアとグラサンでごまかしてるけど、音も見た目もちょっと違うんだけどなぁ。

 

MOTT THE HOOPLE - All The Young Dudes (Live in LA 1973)

 

70年代までは、ステージ衣装はギンギラで派手なのが当たり前で、いわゆるグラム勢に限らず、ジミー・ペイジだってサテンの上下でステージやってたし、日本の演歌ですら美川憲一を持ち出さずとも八代亜紀さんだって同じような恰好してましたよ。黒人音楽にしてもアース、ウィンド&ファイアを観れば一目瞭然。

ストーンズですら73年のツアーはこんな感じ。

しっかり流行に乗れるフロントマンがいたからこそ退屈なブルースバンドに終わらずビッグになれたのです。この姿はロックバンド仕様でブレイクした頃の清志郎の原型ですね。

 

あのクイーンも73年デビュー時にはどういうバンドなのかよくわからず、翌年の2ndがコンセプトアルバムだったこともありハードプログレ→「クイーンはもうクイーン」という認識で、グラムの文脈で語られることはまずなかったのです。

けっこう幅広くアーティストをカバーしている、上の2冊にしてもクイーンの事は書いてなかったけど、今デビュー曲を聴いてみるとグラムの匂いがするでしょうか?

QUEEN - Keep Yourself Alive (1973)

当時、日本の女子達こそ王子様あつかいしていましたが、本国の人から見ればキャンプ感ぷんぷんだったはず。音よりもまず見た目で毛嫌いされたのでしょう。

数年前、初期の映像でフレディがしゃべり倒してるものを見たんですが、和訳が全編おネェ口調になってて「ああ、これが正解だったのか!」と理解した次第。

 

クイーンがあれだけリバイバルヒットするなら次はコレ!ということで仕掛けられたのか?アメリカのクイーンとも呼ばれたスパークス。「Anette」というミュージカルが大ヒットしてまさかのブレイク。iPadCMにこの曲が使われるなんてね。今映像を観ればなかなかのキャンプ感。

 

SPARKS - This Town Ain't Big Enough For Both Of Us (TOTP 1974)

 

日本にもやり過ぎな人は多いけど、やっぱりこの人。

70年代は曲ごとに衣装と意匠を変えてはいたけど、それなりに洗練を志向してたジュリーが、80年代にはネオグラムを狙ったのか、やりすぎ路線にシフト。

TOKIOの点灯パラシュートは画像をのっけるまでもないでしょうが、毎回アダム&ジ・アンツやウルトラヴォックスをネタに音の傾向性ごとパクったりしてた、そんな時代の一曲。

 

沢田研二 - 麗人(1982

日本にガラパゴス的に残っているヴィジュアル系も、歌い方からしてJAPANからの流れだと思うんですが、それもボウイやロキシーに遡れなくもないし、グラムの末裔という言い方はできるかもしれません。

ただL'ArcenCielLUNA SEAにしてもメジャーに上がるとどうしても一般向けにやり過ぎ度が落ちて無難な感じになるし、音自体はなんとなくメタル寄りなんですよね。

 

アリス・クーパーもグラムといえば名前が上がる存在。確かにメイクしてヘビを巻きつけて、ってやり過ぎには違いないけど、むしろオジー・オズボーン的方向性に思えるし、そうなるとKISSだってグラムってことになっちゃうけど。ブレイクした時期も時期で、グラムっぽい曲だったので十把ひとからげにされたのでしょう。

 

ALICE COOPER - School's Out (1972) 

 

その意味ではスレイドなんかも同じ。曲はグラムっぽいけど、どの写真を見てもやりすぎなのはヘンな髪形のお兄さんだけで、他のメンバーはついて行けてない感アリアリ。時期と過剰さだけでグラム認定するのは違うような。

SLADE - Cum On Feel The Noize (TOTP 1973)

逆にグラム本でも忘れられがちなのがこの人。繊細なピアノ吟遊詩人だったはずが、この時期に本性を現していきなりクジャクみたいな恰好でステージに出るようになって、メガネも新調してやる気マンマン。
衣装のみならず、アッパーなロックンロールをシングル曲のサイクルに組み込んで大ヒット、グラムの一角を担う存在として十二分に認められていました。

クイーンの二匹目のドジョウを狙ったような伝記映画はコケたようですが、最後のツアーとか言いながらまだ続けているみたい。

ELTON JOHN - Crocodile Rock (1973)

 

そもそもグラムに音楽的な定義はなかったけれど、傾向性は明らかにあって、当時最も勢いのあったハードロック、プログレッシブ・ロックへ対抗するかのように、シンプルかつポップなロックンロールを基調として、ブルース的な泣きとか情緒的な要素が少な目なんですよね。

73年の映画「アメリカン・グラフィティ」の世界的ヒットを頂点とする、560年代原始ロックンロール回帰の気運におおいに影響されていたのは確かでしょう。明らかにエルヴィス世代のゲイリー・グリッターなんて人もこの期に乗じたグラム仕様のギンギラ衣装で苦節何年のヒットを飛ばしたり、アルヴィン・スターダストとかリーゼント派が後に続いたり、シャ・ナ・ナなんて大所帯のオールディーズバンドもあった。

広く見れば極東のキャロルなんかもその一派と言ってもいいのかも。

 

ロキシー・ミュージックが73年に日本に紹介された時も、フェリィさんとアンディ・マッケイはなんとなく50年代風だけど、他のメンバーはイーノを筆頭にまったく統一感なくて、MLを読んでも音がまったく想像できなかった。当時はラジオでもほとんどかからなかったのです。

でも今回、前年デビュー時のTV映像を見てみるとフェリィさんはロングヘアでキャンプ感丸出しだし、イーノのシンセもそれを増強してあまりある。この音を文章で表現できなかったのもよくわかります。

「アヴァロン」以降AOR的イメージが強くなっちゃったけど、そもそもロキシーは変態だったのです。グラム認定◎。

ROXY MUSIC - Ladytron (Old Grey Whistle Test, 1972)

 

さて、東芝EMIT・レックスに続けとプッシュしたのがシルヴァーヘッド。

SILVERHEAD - Sixteen and Savaged (1973)

80年代のデュラン・デュランなども当初ネオ・グラムみたいなくくりをされましたがが、それは必ずしも的外れではなく、全米制覇後に二派に別れた際もロックなプロジェクトPOWER STATIONで「Get It On」をカバーしたり、ツアーにはおつきあいできなかったロバート・パーマーの替わりにこの人マイケル・デ・バレスを引き入れてライブ・エイドにも出ました。そんな感じで80年前後にデビューした世代はほぼグラムでロックに目覚めてるのです。

でもこれ、がんばってるのはわかるんだけど、やり過ぎ不足、どうにも中途半端なんですよねぇ。上半身裸ならジーンズをあと2㎝は下げないと。イギーを見習って欲しかった。

 

1973年に入ると、グラムの流れでこんな人が出てきました。

「私のベースは子宮に響く」とかエロいことを言ってましたが、歌いながらベースって、ギターみたいにテキトーに手を外せないし、ムズカシイのです。Top of the Popsは基本当てブリですけどね。

SUZI QUATRO - Can The Can (TOTP 1973)

スージーはイギリスに渡ってチャップマン&チンという売れっ子ソングライターチームと組んでからブレイクしたので英国人イメージがあるけど、デトロイト出身の米国人で、それゆえか「デイトナ・デモン」とか「悪魔とドライブ」とか車がらみのモチーフが多かった。

 

1stアルバム邦題は「サディスティック・ロックの女王」

M男3人のメンバー(SUZI QUATROは彼女のステージネームでもあり、バンド名でもあるのです)を引き連れたSMの女王様という設定。日本だけの売り方かと思いきや「Glycerin Queen」なんて曲もあるぐらいで、シングルカットして浣腸器とか持たされなくてよかったw

ファッションはもっぱらレザーのジャンプスーツ、黒かシルバー。それでグラムなのか?と言われれば定義からは外れてしまうんだけど、キュートな女子が楽器を持ってガシガシとロックをやるなんて他にいない、それだけで充分にグラムな時代だったのです。

 

彼女もブームの衰退にあわせてファンキー路線に行ったり迷走しましたが、日本では継続して人気はあったようで、初期作品のボックスセットのDVDに入ってる77年大阪のライブはスゴイ盛り上がりよう。

1950年生まれなのでもろビートルズ世代のはずだけど、なぜかアルバムにはエルヴィスのカバーが多いんですよ。たぶん一緒にバンドも組んでた3人の姉貴に刷り込まれんだろうな。いまだにベースを弾きながら息の長い活動を続けています。

 

アメリカのグラム・ロック(のようなもの)として紹介されたのがニューヨーク・ドールズ。彼らの女装は美しくも可愛くもないし、ドールでもないけど、それこそがキャンプ。

音楽性が高いとかじゃないけど、70年代後半以降のロックの流れにもっとも大きな影響を与えたバンド。

JAPANも音はともかく、初期のたたずまいはあきらかにドールズをトレースしていたし、モリッシーが彼らのファンクラブ支部の会長をやっていた話は有名で、80年代前半にブレイクした世代からも、なにかと彼らの名前が出てくるのです。

そうそう、1stアルバムのプロデュースはさっきの写真のトッド"やりすぎ"ラングレンです。

 

ドールズのマネージャーだったマルコム・マクラレンがその後ロンドンで仕掛けたのがセックス・ピストルズなわけですが、ファッション的にはツンツンヘアだったりトレンドがまったく変わっていたけれど、パンクの源流をたどっていくと、結局USのドールズやストゥージズに行きつくのです。

ただ、マルコムが仕込んだのは、主として過激な外見や不遜な態度などの表層的なもの。肝心の音楽はパンクそのものなのか?聴いてみましょう。

 

NEW YORK DOLLS - Looking for a Kiss

確かにギタープレイやコード進行など、これを聴いて育った子達がパンクスになったのは納得ですが、ストーンズ的なルース感が強く、ピストルズやラモーンズのカッティングとはキレの良さがまったく違う。5年の間に時代が求めるビート感がガラリと変わってしまった、ということだと思います。

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「グラムは女装に始まり、女装に終わる」ということで不肖あたくしがご案内させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

もちろん私自身の女装は女子として見られたい方向性であって、キャンプでもグラムでもないし「やりすぎ感がキモ」とかいうのも、私が勝手に言ってるだけで、定説でもなんでもないのでお間違えなく。
 

ただグラマラスというのは、特に英国ロックにとっては当たり前の要素で、米国のカントリースタイルやグランジファッションはしょうがないとしても、90年代のUKロック勢のステージ衣装がカジュアルというか見た目ふだん着になってしまったのが、ロック衰退の前ぶれだった気がするんですよね。

世界的にロック復興の兆しがある今、本格的なブームにしていくキーワードは「グラム」なんじゃないかなぁ。イタリアのマネスキンなんかは充分そんな感じです。

アジア人もBTSみたいなメイクじゃダメ。やっぱり「やり過ぎ」が大事なのです!

 

 

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