今日は「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の英本国での発売から50周年の記念日。(米国は6月2日、日本では7月5日)
世界が新しい音楽を知った日。
英国沖に停泊している船から不法に放送しているラジオ局では4月中から流れていたらしいけど。
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サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)...
19,440円
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先駆けて発売されたおまけ満載wwムダに豪華なこのセット、あたしもアウトテイクを目当てに入手して聴きつつ、これを書いているわけですが、何がスゴくて、何がスゴくないのか、改めて検証してみたいと思います。
salt and pepperを「サージェント・ペパー」と聞き間違えた段階で、ポールの頭の中には軍服姿の軍曹が浮かんだんだろうし、彼のバンドって構想を思いついた段階でそれはブラスバンドだったんでしょう。
実際、管楽器が重要な部分でフィーチャーされています。
「~クラブ・バンド」ってネーミングは当時もよくあったんでしょうね。
「ロンリー・ハーツ・クラブ」を2017年風に訳すなら「相席居酒屋」かwwww
クラブというのが、入会金が必要な結婚相談所的なものか、不特定多数が入店できるシングルズバーのようなイメージなのかはわかりませんが。
さて、アルバム全体としてでなく、それぞれの曲としてのクオリティを考えると、最高傑作と言うにはいまひとつじゃないかという意見は以前からあったのですが、本当にそうか?
たとえば青盤には①②③⑬と4曲選ばれていますが、ジョージの選曲とも言われるコレ、①はクオリティ云々よりアルバムの象徴として選んだような感じだし、リンゴ曲を入れる意義もあってセットで②も、という印象。文句ないのは⑬「A Day In The Life」くらいかな。
あたしもアルバムを一枚選べ、と言われれば「REVOLVER」を挙げると思うけど、じゃあそんな名曲揃いか?と問われると、誰もが認めるであろう決定的なものは「Eleanor Rigby」くらいか。
「I'm Only Sleeping」「For No One」「I Want to Tell You」は個人的に好きだけど一般的にはちと弱い。「Here,There and Everywhere」は好きな人多いけど、あたしは苦手なパターン。
ね、曲単位で考えると、どれも意外とたいしたことないんですよwww
ビートルズを聴き始めた頃から、最高傑作はペパーというのはもう定説になっていたし、解散後にビートルズを知った世代は、このアルバムの衝撃度は何万回聴いても体験できないわけで。
この一枚が開いた道の先のロック、キング・クリムゾンやピンク・フロイドを聴いてしまった後では、インパクトの追体験など不可能な話。
さて、曲ごとに聴いていきましょう。
① Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Take 9 And Speech)
これ、途中のミックスを聴くとけっこうカッコいいんですが、完成形はホルンや歓声などSEの存在感が強すぎてやっぱりイマイチな曲。
「のっぽのサリー」的な直線的なロックンロールの歌メロゆえ、ポールならではの魅力に欠けますからね。
タイトル曲をもっといい曲、たとえばのちの「Rock Show」クラスの曲としてブチ上げることができれば、アルバムのイメージは全然違ったかと思うと残念ではあります。
それもあってリプリーズ(Repriseの正しい発音はこっち、ってユニバーサルもわかっているらしいんですが、オリジナルのカタカナ表記から変えない方針を取ったらしい)でロックバンドヴァージョンを入れたのかもしれませんが、①を裸にしただけでもよかったのかも。
② With a Little Help from My Friends (2009 Mono Remaster)
いままでこの曲をアルバムタイトルと関連づけて考えたことはなかったんですが、コーラスとの掛け合いになってる部分などはロンリー・ハーツ・クラブでの会話とも受け取れるんですよね。コーラス隊が女性役?
初対面だからこその敬語でしゃべってる感じもあるし。
♀「ひと目ぼれとか信じます?」
♂「いやぁ、そんなのしょっちゅうですよ(笑)」みたいな。
ポールにしてはさほど動いてないベースライン、と思いきやアウトテイクを聴くと、思わぬ所で大きなビブラートをかけていたり、細かい部分でいろんなプレイを試しているのはさすが。
③ Lucy in the Sky with Diamonds (Take 1 / Audio)
ポール主導のアルバムなので彼の曲が半分以上を占めるわけですが、ゆる系の曲も多い中でジョン作品が入ると締まる。
3曲目で一気にサイケ色が高まる、この浮遊感。
キーボード類がメインですが、元祖ドリームポップとも言える。
Bメロでジョージがギターをヴォーカルとユニゾンで沿って弾いてるのは、インドの弦楽器サーランギーの奏法をまねたものらしい。
惜しむらくはサビが単調すぎるので、ヴァースへ戻るところかコーダ部分でひと展開欲しかったな。
④ Getting Better
ある意味、中期ビートルズを象徴するようなサウンド。
この硬い音色の4分音符のギターカッティングだけで「ビートルズをリス
ペクトしてますよ~」という記号になるわけで、そういう曲は世の中に実にいっぱいあります。
ちょっとヒネったタイプをひとつ聴いてください。
XTC - Wake Up (1984)
エンディングでしか目立ってませんが「Getting Better」のマルチテープには全編タンブーラがビィイイ~~ンと入ってます。
ポールのヴォーカルにジョンとジョージがコーラスでチャチャを入れるような形式ですが、曲の練り上げ段階でそういうカウンターを当てて行く、これこそまさにレノン=マッカートニーだという意味のポールの発言が取り上げられていました。
⑤ Fixing a Hole
実に話題に上らない曲ですが、ハープシコードのコード弾きが独特。
ジョージのギターはダブルでサイケ風味を醸し出し、歌詞もちょっとジョンの線を狙っているのか暗喩的。
⑥ She's Leaving Home
ジョージ・マーティンが多忙ということで外部のアレンジャーにストリングスアレンジを依頼した曲。一曲くらいそういうのがあってもいいでしょう。
マリアンヌ・フェイスフルが「Yesterday」のカバーを録った時、知り合ったMike Leanderという人ですが、出だしからハープの音が美しく、全体的にクラシカルというか映画のBGMチックな感じのアレンジ。
⑦ Being for the Benefit of Mr. Kite!
曲としてはアルバム中一番好きな曲。
半年後の「I Am The Walrus」への萌芽が見られます。
サーカスの曲ということですが、ジョージ・マーティンのハーモニウムと、カリオペというミュージカル用の蒸気オルガン(↓)のテープをランダムに切り張りしたSEが雰囲気を醸し出しています。
ハイハットのオープンも効いてますね。
⑧ Within You Without You
ジョージは「REVOLVER」で3曲も入れてもらったのに、今回は1曲のみ
「Only A Northern Song」は録音されたものの没になって、そののち「YELLOW SUBMARINE」に入ることに。
そのかわりに放し飼いにしてひとりで好きなようにやってくれ、って感じでしょうか、ヴァイオリンとチェロに加えて本場インドのミュージシャンを総動員。
他の3人抜きでほんとうに好きなようにインドをやってますwww
⑨ When I'm Sixty-Four
ポール10代の頃の作品とのことですが、昔の録音が残ってたら聴いてみたい。おそらくはまったく別の色合いだったに違いない。
中間部のマイナー・コードのコーラスはまさに中期ビートルズ。
こういうボードヴィル調はその後、ウィングス時代の曲にもあるけど、ポールのひとつの裏の顔みたいなもの。
⑩ Lovely Rita
間奏のピアノソロは「In My Life」方式でテープスピードを落として録音したジョージ・マーティンのプレイ。ノーマルスピードで再生すると打ち込みみたいな感じになるんですよね。
ソロよりも、むしろバッキングのコード弾きが全編すばらしいんですが、コーダ部分は特にサイケな感じが出ていて、ほっとくとどこまでも行っちゃいそう。
リズムを支えているアコースティックギターも地味にイイ。
⑪ Good Morning Good Morning
ホワイトアルバムの「Savoy Truffle」につながるような、コンプでつぶしたブラス隊のリズム。
例によってジョンの自分勝手な歌のリズムで変拍子になっていますが、それを解消するような、ブレイクした後の「ジャーン!」というシンバルの強烈なこと。
一番の聴きどころはやっぱり、食物連鎖を表現したという動物達の追いかけっこでしょう。
⑫ Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
ライブバンドとしての姿をせめて1分間だけでも、ということでしょうか。
今回のステレオ・ミックスでは曲の終わりのポールの声(ペパー軍曹の締めの挨拶?)が大きくなっているようです。
モノヴァージョンに入っている、頭の「コッ、コッ、コッ」は本物の鶏じゃなくて、ギターのミュートで出した音。
ストロベリー・フィールズでも見られた、踏切のような現実音を楽器で出す試みや、ギターからチェロのように、別の楽器にシームレスに変わっていく感じの実験もやっていたようです。
⑬ A Day In The Life
レコーディングバンドとなって実験に充分な時間を割けるようになったわけですが、ドラマーにとっては、リズム録りが終わった後の待ち時間が格段に長くなっていくわけで「このアルバムの時にチェスを覚えた」とのことw
この曲の聴きどころはそんなリンゴの「リード」ドラム。ヴォーカルと会話するかのように様々なフィルインを挿み込んでいきます。
反面、ジョージはこんな壮大な曲にも関わらず、与えられた役割はガイドリズム替わりのマラカスw
そりゃないでしょうよ。
ポールがリードギターを弾くのも当たり前のようになってきて、ジョージはインドの楽器に活路を見出してはいたけれど、アンコール曲という位置づけなんだから、中間部などで効果音的にサイケなフレーズなり付け加える手はいくらでもあったのでは。
「このセッションは退屈だった」と彼自身が言っていますが、退屈だったから積極的に参加・提案をしなかったのか、参加しなかったから退屈だったのか、それは表裏と言えるけど、ポール主導のバンドから心が離れ始めているのでしょうね。
それはある意味、コンサートをやめた弊害と言えなくもないけど、エプスタインの死も含めて、すべてがそういう方向に向かっている感じ。
翌年のホワイトアルバム・セッションでは、それぞれの興味・関心の拡大を反映するように、各人のプロジェクトを並行して同時進行させるようなレコーディングになっていったわけですからね。
ランアウト・グルーヴ(レコードの一番内側の溝)に入れた音を除いて、曲の録音は4/1には終了し、4/25にはもうTV映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」の2枚組EPのための録音が始まっています。
「I Am The Walrus」や「The Fool On The Hill」などが録音されたのは9月に入ってからですが、もう少し早く仕上がっていれば他の曲を押しのけて収録されていたかもしれない。
⑭ Penny Lane
このアルバムセッション中でも重要な位置を占めるのに、今まで触れる機会のなかったこの曲のことも書いておきましょう。
昔からあまり好きではなかったんですが、明るい曲調の中にちょこちょこ挿み込まれるマイナーコードが素晴らしい。
バッキングではピアノがメインですが、まず3トラックを使って「マイクで普通に録音」「ギターアンプを通してエフェクトをかけたもの」「アンプを通してテープを半速に落として録ったもの」と3パターンを収録。
ギターアンプを通した高い音のハーモニウムを4トラック目に入れて、1チャンネルにミックスしたものをベースにして作り上げたとのこと。
ドラムなどはかなり後からダビングするという行程で、およそ普通のセオリーではありえない。
「ビートルズが教えてくれた」なんて曲もありますが、彼らが教えてくれたのは「求められるものを与えるだけでなく、怖れなく前進しろ」という事だと思っています。
それを言葉でなく、成果物として示してくれたのがこのアルバム。
そういう意味で、やっぱり「ビートルズの最高傑作」と言ってもいいのかもしれません。
「関ジャム」など見ていると、その精神は若いミュージシャンやスタッフの間に今もちゃんと生きていることがよくわかります。
(「関ジャム」とは関ジャニ∞がやっている番組、タイトルからは単なるアイドル・バラエティとしか思えないけど、本格的な音楽分析番組なのです。侮るべからず!必見ですよ。)
さてさて、分厚い日本語解説を読んでいると「Strawberry Fields Forever」の項にまったく何の注釈もなく、「ジョージ:メロトロン(ギターのセッティング)」という記載が。。。。。。。。。
リメイク前後の両ヴァージョンに同じ記載があるので、あのスライドもメロトロンなのかぁ?
またまた悩みが増えましたw