「なー!俺、昨日すげーの見たんだぜ!!俺、悪魔見たんだ!」


誠凛高校バスケットボール部、朝練。
自主練が一段落した小金井は他の部員に向かって、話しかけた。

「は?何いってんだ?」

誠凛高校バスケットボール部の主将である、日向があきれた顔で言った。

しかし、皆興味があるようで、小金井に注目していた。

そして、注目している中の二人…伊月と黒子は、皆と違う意味で注目している。

二人は、アイコンタクトと呼ばれる術で、会話を始めた。

『…テツヤ。もしかして、見られたのかな。』
『ありえません。僕がいた時は、人の気配は感じませんでした。
 いたとしたら、僕がくる前ですけど…』

二人は、会話をしながら小金井の話を聞いている。
小金井は、相変わらず凄い勢いで話す為、気を抜くと聞き取れない。
二人は会話を一時中断し、小金井の会話に集中した。

「あのな。俺、昨日森歩いてたんだ。散歩で。
 で、みちゃったんだよ!青い炎に包まれた人影を!
 あれは悪魔だぜ、絶対!なんか剣みたいの振り回してなんかを攻撃してたんだもん!」

『あ。それ、俺じゃね?』
『な、に、を、し、て、る、ん、で、す、か!
 大体、昨日はあのチカラは許可されていないんですよ?』
『いや、強くて。あれは、生身じゃ勝てなかった。』
『だったら、僕を呼んでください!
 大体、なんの為に僕が俊さんとチームをくまされていると思っているんですか。』
『えっと…。テツヤを見つけられるのが俺しかいないのと、俺のチカラのストッパー係だから。』
『わかっているのなら、ちゃんとしてください。』
『はーい。』

守る気など、さらさら無いのだが、伊月はここではい、と言わなければめんどくさくなる事をしっているので、返事をした。

黒子は、守る気が無い事などわかっているが、目を瞑っている。

伊月が、チカラを使わなければ、並の人間以下だと言う事を、黒子は知っている。
それでも、チカラを使わずに、エクソシストになったのだから、この人は凄い、と思っている。
自分の四分の一の力で、エクソシストになったのだ。
本当は、もっと敬われ、ほめられるはずなのに。
彼は、悪魔の子だから、サタンの息子だから、と、嫌われ、認められていない。
それでも、彼がここまで上って来れたのは、メフィスト・フェレスの加護のおかげだ。
自分がここまでこれたのも、メフィストのおかげなのだ。

感謝は、している。
だが、信用はしていない。

メフィストは、何を考えているのかわからない。
自分たちを利用しようとしているのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
時々、恐ろしい事件に巻き込まれたりする。
奴は、信用してはいけないヒト。
そう、黒子は認識していた。

そんなヒトと、伊月は数年も、一緒に暮らしていたのだから、驚きである。
黒子が伊月から聞いた話だが、昔、彼はメフィストと兄弟として、一緒に暮らしていたらしい。
詳しくは教えてくれなかったが、悪い記憶でも無いらしく、楽しそうに話していたのを、黒子は覚えている。

ふと、伊月を見ると、ミーティングの打ち合わせをしている最中で、日向と真剣に話している。

そこに、誠凛高校バスケットボール部カントク、相田リコが、伊月に話しかけ、なにやら強引に、伊月を部室に連れて行った。

黒子は、心配になり、こっそりと後をつける事にした。

黒子が部室を覗くと、カントクが伊月を押し倒して、ナイフのような物を突きつけていた。

「で、どうゆう事かしら、伊月君?」
「いや、怖いからマジやめてカントク…。」

やめないわよ、といって、ナイフを更に突きつけ、答えを待っているカントクは、あきれているような、おこっているような表情をしていた。

というか、それ犯罪ですよ。
そう、黒子は心の中で叫びながら、事の行く末を見守った。
本当に危険になったら、偶然を装って、話しかけるつもりである。

そんな黒子にまったく気づかず、リコは話を続ける。

「伊月君。去年、あなた、言ったわよね?バスケに支障でない程度にやってるって。」

その問いに対し、伊月は顔を横にそらして、答えた。

「……そんな事言ったっけ?」

言ったわよ、といつもより低い声で呟くリコは、恐ろしいと、黒子は思った。

「……バレてないと思ってるの?怪我してる事。」

え、と伊月が呟いた。

その反応に対し、ため息を吐いてからリコは言った。

「バレてるわよ。動きが変だし、数値が可笑しいもの。」

伊月はその発言に対し、苦笑しながら言う。

「あー。バレてたか。まあ、派手にやっちゃったもんな…。」

リコは、その様子を見て、またため息をつき、服脱ぎなさいと、命令した。
伊月は、はい、と返事をし、服を脱いだ。

リコは、伊月の数値と怪我をみて、少し躊躇いながら、伊月の怪我の判断を下した。

「けっこう…、酷い怪我ね。今週は、部活もその仕事も休みなさい。
 本当は、入院した方が良いんだけど…。」

あ、そりゃ勘弁、と伊月が笑いながら服を着た。
伊月は、入院レベルの怪我をしているのだが、たいして痛そうにしていない。
それは、慣れてしまったからであり、伊月にとっては、それはかすり傷でしかない。
その事を知っているからこそ、リコは心配していた。
死んでしまうほどの大怪我を負うかもしれない状況で、無理をするかもしれないからだ。

リコは、エクソシストについて、よくは知らないが、ある程度伊月から説明を受けていた。
その仕事については、仕方ないとは思っているが、バスケ部で活動するにあたって、二つの条件を出した。

一つは、周りに迷惑をかけない事だ。
エクソシストは、大体よるに仕事をする。
それで、寝不足で倒れたり、練習に身が入らなかったりするのは、駄目だ、と言った。
もう一つは、怪我をしない事だ。
エクソシストは、怪我をする仕事だと伊月からリコは聞いていた為、大きな怪我をしないように、と言った。

リコは、ため息をついてから、意地悪そうに伊月に話しかけた。

「さーて。よくもその条件を破ってくれたわね。どうする?退部する?」

嫌だな、と伊月が即答し、それに苦笑いしながら、リコは言った。

「じゃあ、もうしないでね。次ぎしたら、全裸告白して。」

え、と伊月は顔を引きつらせたのをみて、リコはにんまりと笑って、部屋から出て行った。


「…カントクは、知っているんですか?」

リコがいなくなり、暫くして黒子が伊月に話しかけた。

いたのか、と伊月は呟いて、笑いながら返事をした。

「ああ。テツヤの事はまだ言えてないけど、俺の事は去年言ったよ。
 まあ、見破られたに等しいんだけど。」

じゃあいこうか、と伊月は黒子に言い、黒子はうなずいた。

黒子には、まだ聞きたい事が一つあった。
先ほど、小金井が話していた時、誠凛高校バスケットボール部の創始者である、木吉がずっと伊月をみていたのだ。
もしかしたら、木吉も知っているのかもしれない、と思ったが、今はこれでいいか、と考え、聞かなかった。


「そうそう、テツヤ。お前も早くリコに言えよな。
 …バレる前に言わないと全裸やるかもしれないし。」

そんな、伊月の話を聞き、黒子は慌ててリコの所に向かっていったのだった。