-1話-
☆私は知らなかった。温もりとはどんな感じがするのか、優しさとはどういうものなのか、慈しみとは何なのか。そして何よりも、愛というものが私には理解できなかった。でも、今ならわかる。愛とは、ようやくその本当の意味を、私は知ることができたんだ。これは私たちの愛の物語だ。

 

☆ごめんなさい。心に決めた人がいるので。

☆おまたせー!

☆ごめんねー

☆んーん、しょうこちゃん、私そういうのやめたの。

☆好きな人ができたから。

☆二人暮らしも始めました♡

☆内緒にしてね。しょうこちゃんだけに話したんだから。

☆とにかくその為にも稼がなくちゃいけなくて…

☆それよりしょうこちゃん、太った?

☆触診から察するに、適正体脂肪率より2%オーバー。しょうこちゃん、男の子落としたいなら、常に最高の体系を維持しないと。

☆おかえりなさいませ、ご主人様♪がうがう~っ

☆はい、ネコさんですよ~

☆おいしくなーれ♡おいしくなーれ♡

☆おめでとうございまーす!

☆そう。私は見つけたのです。最愛の人を。

☆ただいま!

☆甘くていい匂い…私が見つけた女の子、しおちゃん。私の最愛の人。

☆玄関で待ってたの?寒くなかった?

☆も~う…しおちゃんかわいいっ

☆しおちゃんとは数日前に出会いました。

☆えっとー…。アルキメデスの原理なんて言っても分からないだろうなぁ…

☆このお湯がね、ひよこちゃん助けよーって頑張ってるんだよ!

☆しおちゃんは物事をあまり知らない。

☆無知で純粋で、可愛いしおちゃん。

☆いいですよ、しおちゃん!

☆この子はどんなものよりも甘いかけらで、私の心を満たしてくれる。きっとこのキラキラしている感情が、愛と呼ばれるものなのね。

☆幸せだなぁ…ずっとこうしていたいなぁ…。でも、それじゃダメ。生きていくにはお金が必要だもの。食費に光熱費に、家具とか服とか。だから働かなきゃ。

☆ごめんね、しおちゃん。今日から新しいバイト始まるから帰り遅くなるけど、一人でも大丈夫?

☆しおちゃん…。うん、しおちゃん!私頑張るからねっ!

☆新しく入った松坂さとうです。早く仕事がこなせるよう頑張りますので、よろしくお願いします。

☆はい。

☆あ、これ使い方わかります。

☆はい。何か間違ったりしたら言ってもらえたら。

☆あ…いらっしゃいませ~

☆うん。バイトさんもいい人ばっかりで。

☆しょうこちゃん?

☆そんなことしないよ。

☆はいはい。

☆しおちゃん、そのちゃんねるは映らないよ。

☆バイト、ね…面倒なことがなければだけど。

☆あ、いえ…ごめんなさい。私もう、心に決めた人がいるので。

☆そんな…皆さんのにこにこした笑顔、可愛いと思います。だからもっと笑ってください!

☆お疲れ様です!

☆早く帰らなきゃ…

☆その翌日から、三星君はバイトに来なくなった。

☆残業は基本ないって話じゃ…

☆は?

☆でも…

☆そう。

☆そんな日がしばらく続いた。

☆このままじゃ…このままじゃダメ…

☆だめだ・・・私の中の瓶が壊れて、甘いかけらがこぼれていく…いかないで、それは私の愛の粒なの。私の心。このままじゃダメ…ダメになる。

 

☆あの、店長。ちょっといいですか?

☆お給料、働いた分と合いません。間違ってます。

☆ありません。私はちゃんと働きました。

☆勝手に減給するのが許されるんですか?

☆いや…やっぱり納得できません。だって、だめですよ、店長。未成年に手を出しちゃ。

☆私見たんです。店長ここに三星君連れ込んでましたよね?

☆いいがかりじゃありませんよ。だってここに充満してる。店長と三星君がそういうことした匂い。じとじとして気持ち悪い店長のにおいが、三星君を飲み込む感じ。

☆なんなら三星君の口から直接聞けばいいんです。

☆どうしてですか?できますよ?

☆だから、できますよ?

☆そしたら、どうなるんでしょうね。美人で優しいって評判の店長が、実は淫行条例に引っかかるような女だなんて。女王様のあなたが、周囲に向けられる目に耐えられますか?

☆そのガキに対してどうして我慢できなかったんですか?

☆そんなに嫌でしたか?自分よりこんな子供に注目されること。

☆すごい顔。

☆どっかにアップしちゃいますよ?

☆私はあなたの王国なんてどうだっていいんです。あなたがここで何をしようが、どうふるまおうが、本当にどうでもよかったのに。

☆どうして我慢してくれなかったんですか?私は我慢したのに。仕事だと思って、残業も掃除も。しおちゃんとの時間が減ってしまうけど、全部我慢してきたのに…!

☆だから、店長も我慢してくれればよかったんです。そしたらお互い不快な思いはしなくてよかったのに。

☆店長、あなたのは愛じゃないと思います。だって愛はきっと心が勝手に感じてしまうこと。甘くて、キラキラしてて、誰かに教えてもらったわけでもないのに、これが私の幸せだってわかってしまうこと。教えなきゃ伝えられないなんて、見返りを求めるのが前提の愛なんて、そんなまずくて苦いもの、私は愛とは思えない。ねぇ、店長?興味なくても目障りだったら壊したくなる。よくわかりますよね?大丈夫ですよ。ちゃんと、お給料払ってくださいね。

☆大丈夫?三星君。気を付けなよ、女の人って独占欲強いから。

☆苦い…苦い…苦い、苦い…苦い、苦い、苦い!!

☆しおちゃんただいま!

☆遅くなっちゃったのに起きてたの?

☆しおちゃん…

☆心の中にあったムカムカが一気に消えちゃった…。こんなの初めて…幸せ…。

☆愛してるよ、しおちゃん。

☆私は人を愛したことがなかった。愛をささやかれたことなら、何度もあった。けど、どんな言葉をもらっても、何をしてもらっても、何も感じなかった。でも、今は違う。しおちゃんが私に愛を生ませてくれた。きっとこの先も、もっともっと私に愛を教えてくれるはず。

☆ねぇ、ありがとう。結構住み心地いいよ、あなたの家。

☆だから、私がしなきゃいけないことは、この大切な感情を守るために、愛をこぼさないお城を作ることだ。しおちゃんとずっと幸せに暮らすための、世界で一番甘いお城。

☆私のやるべきこと。んー、邪魔だから、ちゃんとどこかに捨ててこないとなぁ。ふふふ、こんにちは。ハッピーシュガーライフ。

-2話-

☆愛が分からなかった私の前に突然現れた、天使みたいな存在。しおちゃん。私はしおちゃんとの生活を守らなくてはいけない。もっと愛を知りたいから。だから…。

☆殺しちゃダメ。

☆そっか。

☆…もう寝てたかもです。

☆私バイトでした。あと、おばさんも夜に結構出かけたりするので。

☆男の子遊びならもうやめたので大丈夫です。本命が出来たので。…でも、そうですね。困ったこと一つあります。最近、ストーカーにつけられているような…。いえ、多分気のせいです。先生、ありがとうございます。

☆私はしょうこちゃんが心配。

☆だって、結構物言いきついから。

☆うん。だから気を付けて。しょうこちゃんに何かあったら、私悲しい…。

☆そうなの?

☆彼氏じゃない。だけど、あの子は私の愛する人。本当に不思議だなぁ…。パズルみたいに、甘いかけらを埋め込んで、かけていた私の心を満たしてくれる、しおちゃん。…もう少し、待っててね。

☆やめてほしいので、こうしたら姿を現してくれるかなって。

☆なんだろう…苦い。

☆この人苦くてたまらない。

☆どうして?先生なのに生徒の事ストーカーしていいんですか?

☆悪い大人。

☆なんで知って…

☆苦い、苦い、苦い…!

☆バレたらいろいろまずいんじゃないですか?先生。

☆苦すぎて吐きそうだ…

☆まだ苦い…苦いのは嫌いなの…

☆しおちゃん、しおちゃん…甘いのが欲しいの…しおちゃん…

☆ん…甘い。

☆うん…!

☆甘すぎるよ…不思議。もう甘いのしか感じない。

☆しおちゃん、しおちゃん、しおちゃん大好き…!大好き…!

☆甘いかけらであますことなく、私の中が満たされていく…これが愛。だからこの愛を邪魔するものは…

☆先生、おはようございます!

☆はい、松坂さとうと言います。実は授業の事で、どうしても聞きたいことがありまして、朝早くに申し訳ないと思ったのですが、いてもたってもいられなくなって…

☆はい、よろしくお願いします!

☆先生、あんなに可愛い奥さんとお子さんがいらっしゃるんですね。独身なのに。どうして既婚なの隠してるんですか?

☆全然、わかんないんですけど。先生は女の人に一方的に快楽を求めているだけでバレたら破滅のスリルが気持ちいいだけじゃないですか。そんなにスリルが欲しいなら、私が好きなだけ追い込んであげましょうか?奥さんにばらして家庭崩壊がいいですか?職場に連絡して懲戒免職がいいですか?…ていうか、生徒に手を出すの私が初めてじゃないですよね?クズ過ぎるでしょ。

☆分かりました?先生、それは愛じゃない。先生がドМの変態だってだけなんですよ。

☆私はようやく見つけたんです。たった一つの愛を。自分に酔っているだけのあなたと一緒にしないでください。

☆あ、大人の先生に一つ相談したいんですけど。実は処分に困ってるゴミがあるんです。

☆私は、しおちゃんへの愛で生まれ変わってるみたい。もっとこの愛の事を知りたい。だから、誰にも邪魔させない。何があっても守ってみせるよ。ハッピーシュガーライフを。