灯りが煌々と点る真夜中の街に、線の細い雨が降り注ぐ。
その街の一角の、ビルの屋上に、一人の男の姿があった。
闇夜と同色の髪を腰までのばし、スーツの、ワイシャツのボタンを二番目まで開けて着崩している。
かけた細い銀縁の眼鏡の奥には髪と同色の瞳が細められ、フェンスの向こうの街を眺めていた。
吹いた風が、ズボンに手を入れた格好の男の髪を靡かせ、白い首筋を露にした。
「ここも違ったか……」
呟くその声は低く、言葉が出ると同時に、男の端正な顔立ちを歪めさせた。
「一体…どこに…」
「まだ見つからないの?」
背後から甲高い女の声がして、男は静かに振り返った。
「……菊(キク)」
男は低い声で女の名を呼ぶ。
ボーイッシュに切り揃えられた栗色の髪。
ジーパンに白いTシャツ。その上に、焦げ茶色のジャケットというラフな格好だ。
ジャケットと同色の瞳は面白くなさそうに歪められていた。
菊と呼ばれた女は、手を後ろに組んで、男の隣に立った。
「これでもう10カ所目でしょ?」
「……あぁ」
はぁ、と一度嘆息して、菊はコンクリートの床を蹴って、フェンスの上に立った。
「で?次はどこに行くか決めたの?新月(シンゲツ)?」
新月と呼ばれた男は、一瞬黙ったが、やがてゆっくりと頷いた。
「そっか、じゃ行かないと。もう私飽きたよ」
菊はそう言うと、二度跳躍して、フェンスの向こうへ消えた。
「全く……せっかちなやつだ」
新月はやれやれとため息をつき、自分もフェンスの上に立つ。
再び風が吹き、新月の長い髪を靡かせた。
煌々と輝く街並みを眺め、新月は静かに呟いた。
「『力』を持つ者…必ず探し出す…」
そして、新月の姿もフェンスの向こうに消え、屋上からは一切の人影もなくなった。