序曲の章から、死のかげの谷の章までの各章ごとに使用されている色を書き出し、さらに考察したところ

・ヒロイン(主人公の婚約者)を象徴するように、
多くの章で薔薇色が登場し、彼女の愛くるしい一面を表している

・生から死への表現として

サナトリウムでの二人きりの生活を始めた頃の主人公の心情を

『藍青色に晴れわたった空』

と描き

冬の章には、婚約者の死期を暗喩するように

『鈍い青味を帯びた闇の中』

という対と成せるような表現が使用されている
また、サナトリウムに転院してきた頃の白の役割は、『白いつぼみ』という死が近づくなかでの二人の幸福な生活への期待を演出すると共に、『白々とした肋骨…』というレントゲン検査の芳しくない結果を挿入することで、不安を掻き立てるという相反したものを描くことで物語に読者を引き込んでいる。

というようなそれぞれの色に課せられた役割を読み、
更には序曲の章から風立ちぬの章までの色彩の増加、
死のかげの谷の章では激減している色彩が物語の全体を通しての主人公の生命力の変化や、
婚約者への哀悼を物語っているのではないかと思わずにはいられませんでした。

今までの私は物語の展開や登場人物の変化を追うのに力を注いだ読書をしていましたが、
『風立ちぬ』を再読したことで他の視点から物語を読む楽しみを学ばせていただき感謝の気持ちでいっぱいです。