蹴りたい背中 (河出文庫)
綿矢 りさ
河出書房新社
売り上げランキング: 12,214



【はじめに・買った理由など】

【構成・概要】
文庫: 192ページ
出版社: 河出書房新社
発売日: 2007/4/5

第130回(平成15年度下半期) 芥川賞受賞
『インストール』で文藝賞を受賞した綿矢りさの受賞後第1作となる『蹴りたい背中』は、前作同様、思春期の女の子が日常の中で感受する「世界」への違和感を、主人公の内面に沿った一人称の視点で描き出した高校生小説である。
長谷川初実(ハツ)は、陸上部に所属する高校1年生。気の合う者同士でグループを作りお互いに馴染もうとするクラスメートたちに、初実は溶け込むことができないでいた。そんな彼女が、同じくクラスの余り者である、にな川と出会う。彼は、自分が読んでいるファッション雑誌のモデルに、初実が会ったことがあるという話に強い関心を寄せる。にな川の自宅で、初実は中学校時代に奇妙な出会いをした女性がオリチャンという人気モデルであることを知る。にな川はオリチャンにまつわる情報を収集する熱狂的なオリチャンファンであった。


【あらすじ・感想】
あらすじ
上記参照
感想

主人公のハツは、友達グループを作りその輪に入るために自分の一部を殺している人たちを馬鹿にしています。

 私もクラスでは一人でいることも多かったので同じように思っていたことがあります。ここまでは徹底して居なかったので友達は少しはいましたが、グループでの力関係など外から見ていると面白い部分があり馬鹿にしている部分もありました。
 この「私も同じことを思った」「何で私のことを言っているのだろう」という気持ちになる小説がたまにあります。代表的なものが太宰治の「人間失格」でしょう。
 私は大学生になってから読んだのであまり傾倒しませんでしたが、熱狂的な太宰ファンになる人の中には(特に人間失格でファンになる人)本気で「何故私のことを言っているんだ!」と思う人がいると思います。
 この心理について少し考えてみます。太宰にしてもこの蹴りたい背中にしても実際にここまで徹底して道化を演じたり、孤独になったりしている人はいないと思います。それなのになぜ完全に一致させてしまうのかといえば、その自分に特殊性という意味を持たせたいからなのだと思います。本当は中途半端だった自分の立ち位置を極限まで振りきっている存在に、自分を同化させることで「私はこのような高尚な思想のもとあのような行動をし、孤独な気分になっていた」というふうに勘違いしているのだと思います。人はどのような特徴においても自分がその他大勢のなかで突出していない中途半端な位置にいるとは思いたくないものです。
 このような理屈によると、最も適用されるのが自己アイデンティティを求める思春期です。中高生が人間失格を読んで傾倒してしまうという話とも合致します。


また、陸上部の生徒に気に入られようと生徒の気持ちを察して行動する顧問の先生とそれを利用する生徒の関係性も批判しています。それに関連する陸上部の先輩とハツの会話の場面を引用します。私が一番印象に残った場面でもあります。

「陸上部もいい雰囲気になったよ。去年の顧問はやたらスパルタで、記録の数字しか見ないような奴だったから、やめてく新入部員も多かった。今年はせんせいとみんな仲良しで、部活楽しー。」
「先生は飼いならされてるだけじゃないですか」
吐き捨てるように言ってから、しまった、と思った。空気が不穏に震え、肌寒くなる。先輩は前を向いたまま、低い声で吐き捨てた。
「あんたの目、いつも鋭そうに光ってるのに、本当は何も見えてないんだね。一つだけ言っておく。私たちは先生を、好きだよ。あんたより、ずっと。」

私は何も分かっていないのかもしれない。もしかしたら陸上部員たちと先生の間には、嘘じゃない絆もあるのかもしれない。なんて。そんなのあるわけない。さっきの先輩の言葉はただの虚勢だ。いつまでたっても先輩たちのやり方に染まらず冷ややかな目で彼女たちを見ている私を脅威に感じていて、そのせいででた虚勢だ。



前半最後の先輩の言葉によってハツの心はかなり打ち砕かれていると思います。一行開けて、心の中で反論。反論の前半。「もしかしたら陸上部員たちと先生の間には、嘘じゃない絆もあるのかもしれない。」ここでは一見心が揺らいでいるように見えますが、「嘘じゃない絆」なんで曖昧なものを持ち出すことによって引き分けの持ち込もうという心理が読みとれます。反論の後半に至っては妄想もいいところです。


この作品は芥川賞を受賞しています。私の芥川賞でイメージする作品に比べて比喩などの表現がわかりやすく、私は面白く読むことができました。それに対して、「女子高生の考えは理解できない」「芥川賞の品位を落としめた」という批判をする人もいるようですが、難しい表現だから高尚だ、価値が高いなんていう理屈に私は賛成できません。その書きたい対象を表現しようと思った結果の文章に対して、その難しさ簡単さに優劣はないと思います。(そもそも理解できないから価値が低いなんて物凄い理屈です。)


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