実は多い「兄から妹への性的虐待」被害者の消えない恐怖。母に“早く忘れろ”と包丁で脅されたことも




成人後、きょうだいとのトラブルに悩まされる事例が後を絶たない。きょうだいが巻き起こす、終わりの見えない骨肉の争いに家族は疲弊し、蝕まれる。そうした、「毒」としか言いようがないきょうだいの実態を追った。

兄から連日性的被害。親からは黙殺され…

幼い頃から日常的に兄の暴力を受けていた森由紀さん(仮名・39歳)。11歳になったある日から、そこに猥褻行為も加わった。

「当時はまだ何をされているかよくわからず、応じれば兄の暴力がマシになると思い抵抗しませんでした」

だが2年後、彼女は中学の授業で行為の意味を知った。

「妊娠の可能性があるとわかって、恐ろしくなり母に打ち明けると『卒倒するかと思った』とひと言だけ。『早く忘れろ』と包丁で脅されたことも。一方、兄は長男だからという理由で怒られることが一切なかったんです。父も家庭に無関心で、頼りにならなかった」

上京後も慢性的なうつに悩まされた

18歳での上京を機に実家との連絡を断ったが、複雑性PTSDになり、男性の近くにいるだけでフラッシュバックに襲われ、慢性的なうつに。結婚は2回したが、相手を信用できたことはなかった。

だが、あるきっかけで数年前から前に進み始めている。

「2人目の元夫が幼少期に親戚から性的被害を受けていて、その加害者が逮捕されたと聞きました。それで私も1年前に兄と両親を相手に裁判を起こしました。『あの頃の私は悪くなかった』と公に証明される日まで立ち向かいます」

兄から妹への性的虐待例は非常に多い

毒きょうだいを語るうえで、無視できないのが性被害だ。

家庭内問題のカウンセリングに約50年間携わってきた公認心理師・臨床心理士の信田さよ子氏は、兄から妹への性的虐待例は非常に多いと話す。それは父親から娘への事例を凌ぐという。

「ただ、それは長期ではなくある一定期間です。父親が母親に対して抑圧的だったり、暴力的だと兄も同じような態度になりやすい。妹が思春期を迎えると性的関心を向けるのです。実際、中学生の頃に兄が毎晩こっそり部屋に入ってきたという体験をした人もいました」

兄は社会的に成功、妹はうつ状態に…

妹が精神的ダメージを受けるのは必然だ。しかし、加害者である兄は往々にして社会的成功者、地元の名士になっていくというから理不尽である。

「40代を過ぎた兄は名誉職にもたくさん就き、妻子もいて、子供は名門中学に入っている。実家の墓も守っている兄に比べると、妹は仕事も続かずうつ状態で絶望的です。その頃になってカウンセリングにいらっしゃる方もいます」

今すぐ解決されるべき問題だ。

【信田さよ子氏】 臨床心理士、日本公認心理師協会会長。1970年代より現職。『共依存――苦しいけれど、離れられない』(朝日文庫)など著書多数。

日刊SPA!2023年8月28日閲覧