「刑事裁判」と「民事裁判」では何が違うか?

裁判には「刑事裁判」と「民事裁判」の2種類あるが、1つの事件が両方の裁判で争われるケースもある。両者にはどのような違いがあるのか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。

【相談】

先日、小学生の息子とニュースを観ていたら、アナウンサーが「なお、この詐欺事件は刑事だけでなく、民事裁判でも争われる見込み」と伝えたのです。その際、「刑事と民事の違いはなに?」と息子に質問され、正しく答えられませんでした。同じ裁判なのに、刑事と民事の違いって、どこにあるのですか。

【回答】
裁判とは、争いを解決するための国の司法機関である裁判所による判断です。大別すると、刑事裁判と民事裁判があり、その区別をご質問の詐欺事件に基づいて説明します。

詐欺は大雑把にいえば、人を騙してお金や財産を奪うこと。刑法により、10年以下の懲役で処罰される犯罪ですが、詐欺被害者の権利を侵害して損害を与えたので、民法の不法行為にも当たります。

詐欺は大雑把にいえば、人を騙してお金や財産を奪うこと。刑法により、10年以下の懲役で処罰される犯罪ですが、詐欺被害者の権利を侵害して損害を与えたので、民法の不法行為にも当たります。

検挙された詐欺犯人は司法制度の構成員であり、国民の代理人ともいうべき検察官から起訴され、被告人として刑事裁判を受けます。

刑事裁判の当事者は、検察官と被告人です。有罪と認定されると、懲役刑の言い渡しを受け、執行猶予が付かなければ、刑務所で服役して罪を償い、更生することが期待されます。刑事裁判による処罰を通じ、社会の秩序維持と犯罪防止効果が図られるわけです。

このように、刑事裁判は犯人の処罰と社会秩序の維持という社会的利益を守るための制度で、被害の回復の有無は、刑の量定を判断する上の参考になるだけです。

次に、刑事裁判により、詐欺犯人が有罪になっただけでは、被害は回復しません。詐欺被害者は、自ら詐欺犯人に対して不法行為に基づく賠償請求をし、詐欺被害の回復を図るしかありません。詐欺犯人が任意に支払わなければ、犯人を相手に不法行為責任を問う裁判を提起する必要があり、これが民事裁判です。

私人である被害者を原告、犯人を被告(民事裁判では「被告人」といいません)として争われます。もちろん、裁判官は刑事裁判とは別人で、民事裁判と刑事裁判は截然として区分されます。

ただ、犯罪被害者の権利保護のため、殺人や傷害事件など、人身被害を伴う一定の犯罪の被害者や遺族は、刑事裁判で意見陳述したり、損害賠償の命令をするよう刑事裁判所に求めることができます。

マネーポスト2022年8月14日閲覧