「頭がいい人」の思考法とは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

「頭のいい人は原因と結果の関係を説明することがうまい」。『あらゆる悩みを自分で解決! 因数分解思考』を上梓したビジネス数学教育家である深沢真太郎氏はそう言います。氏の提唱するビジネス数学はビジネスで使える数学的思考が身につく教育テーマのことを指しますが、その指導内容において重視しているのが原因と結果の関係を「矢印(→)」を使って表現すること。なぜ「矢印(→)」なのか。なぜビジネスパーソンの成果に直結するのか。具体例を交えて、ビジネスパーソンの問題解決力がアップするためのヒントを解説します。

【図】頭のいい人がやっている思考の流れ




■問題解決できる人はここが違う

まずお伝えしたいのは、数学とは「関係の科学」だということです。例えば「Y=aX+b」という数式は、変数Xと変数Yの関係を表現したものです。「三平方の定理」は直角三角形に関する3つの辺の長さに関する関係を表現したものです。これらはほんの一例ですが、あなたがかつて学生時代に学んだ数学の授業は、関係を科学することを教えてくれる時間でもあったのです。

ですから数学を正しく学んだ人は、「2つ以上の対象に対する関係」にとても敏感です。例えばビジネスという文脈で言えば、売り上げと広告費の関係、従業員数と営業利益の関係、勤務時間と成果の関係、といったものに関心を持てるということです。

とりわけ重要なのは、原因と結果の関係に敏感であることです。ビジネスは問題解決の連続です。問題解決できない人材はすぐに退場を余儀なくされる、とても厳しい世界と言えます。では問題解決できる人とはどんな人でしょうか。私の答えはこうです。

原因と結果の関係に敏感であること。
その関係を科学しようとする発想があること。

実は原因と結果は矢印(→)でつなぐことで表現できます。例えばある会社で「管理職が仕事をしていない」という問題があり、さらに「人材育成をする発想がない」という問題もあったとします。もし人材育成をしていないから管理職の質が低くちゃんと仕事をしていないという実態があるとするなら、次のような関連づけができるはずです。

(原因)人材育成をする発想がない→(結果)管理職が仕事をしていない

もしこの「管理職が仕事をしていない」という問題を解決したいなら、「人材育成をする発想がない」という事実を変えないといけません。つまり問題解決するための施策が明らかになります。極めてシンプルな例でしたが、原因と結果は矢印(→)でつなぐことで表現できること、問題解決できる人はつねに矢印(→)で思考していることが伝わったでしょうか。

■因数分解した後にすること

前回の記事「問題解決が苦手な人は『因数分解』をわかってない」で、私は「因数分解思考」をご紹介しました。例えばビジネスパーソンが「上司から信頼されていない」という問題を解決したいとします。解決するために具体的に何をすべきかを明らかにできる人は、そもそも「信頼」というものがどのような要素がどう関連づけられて決まるものかを考えるでしょう。例えば次のような因数分解をしたとします。

信頼を高めるものは何よりも仕事の成果であること。逆に信頼を損なうものは上司への態度の悪さとコミュニケーション不足。前者は増やす(高める)ものであり、後者は減らす(改善する)ものとなります。それぞれ増やす(減らす)ためには何をどうするのかを考えることこそ、まさにビジネスパーソンに必要な問題解決力にほかなりません。

ところで、ここで表現された各要素の関係を考えてみます。特に原因と結果の関係になっているものを探るのです。

もしこのビジネスパーソンが上司への態度が悪いことを自分で認識しているならば、そこにある種の気まずさや引け目を感じているかもしれません。それは結果として両者のコミュニケーション不足につながるでしょう。それは当然ながら上司からのサポートやアドバイスなどが減ることを意味します。結果的に成果をあげることを阻害することになるのは容易に想像できます。この内容を矢印(→)でつないで表現すると、次のようになります。

「態度が悪い」と「コミュニケーション不足」は改善するものであり、「仕事の成果」は高めるものです。そして2つの矢印(→)によりこの3つは原因と結果でつながっていると考えることができます。ならば「上司から信頼されていない」という問題を解決するためにまずするべきことは、「態度が悪い」を改善することと結論を出すことができるでしょう。

このように問題解決できる人は因数分解をしただけではなく、その後に矢印(→)を使ってさらなる関連付けを試みるのです。これはつねに「AとBの関係を科学する」という発想を持っているからできることです。

STEP1 因数分解して要素とそれらの関係を明らかにする
STEP2 さらに矢印(→)で関連づけることで施策を明らかにする
この2行に共通して含まれる漢字がひとつだけあります。「関」です。つまり問題解決が上手な人は「関」で仕事をするということです。

一方、繰り返しですが、数学とは関係の科学です。つねにAとBの関係を表現することを目指す学問と言えます。

ビジネスでの問題解決においてパワフルなツールになる相関関係の分析や回帰分析なども、実はすベてAとBの関係を表現するという思想が根底にあります。私は日頃から「問題解決できる人は思考が数学的である」と言い続けておりますが、今回ご紹介した話題はまさにそのシンプルな例のひとつといえます。

■数学を勉強するのではなく、数学的思考を身につける

まとめます。次の1行に異論がある方は少ないのではないでしょうか。

頭の良い人=問題解決できる人 (1)

では問題解決できる人とはどのような人か。ここまでお伝えしてきたように関係を科学できる人、つまり数学的思考ができる人です。

問題解決できる人=数学的思考ができる人 (2)

(1) と(2)より、次の1行が導かれます。

頭の良い人=数学的思考ができる人 (3)

この論述を整理すると次のようになります。これもまた、極めてシンプルではありますが数学的な論述ですね。

(1)かつ(2)→(3)

私は仕事柄、たくさんのビジネスパーソンやトップアスリートの皆様とお会いします。彼らに「もういちど数学の勉強をしたいか?」と問うと、ほとんどが「NO」と答えます。しかし「数学的思考を身につけたいか?」「頭のいい人になりたいか?」と問うと、ほぼ全員が「YES」と答えます。

だから私は、数学の勉強などしなくても数学的思考が身につく教育やコンテンツがあるべきだと考え、現在の活動をしています。ぜひビジネスパーソンの皆様にはビジネス数学という選択があることを知ってほしいと思います。頭の良い人とは、数学を勉強した人ではありません。数学的思考ができる人です。

深沢 真太郎 :BMコンサルティング代表取締役、ビジネス数学教育家

東洋経済オンライン2022年7月22日閲覧