相談件数が高止まりを続ける“ストーカー被害”。今回、加害者たちの“更生プログラム”にカメラが潜入。参加した男性から出たのは「禁断症状が抑えられない」という衝撃の言葉。さらに、無事プログラムも終了…と思いきや、意外な結末が待っていました。

ストーカー行為について学ぶ男性たち

去年12月、大阪のとある施設。
ストーカー加害者の更生を支援する「ストーカー・リカバリー・サポート」の守屋さんが、“元加害者”への更生プログラムを行っていました。

「なぜストーカー思考になるんでしょう。『絶対に彼女に会いたいんだ!どんなに嫌がられても絶対に会えば分かる!』 と、理性を打ち負かした状態が、ストーカー行為につながる」(ストーカー・リカバリー・サポート 守屋秀勝 代表)

参加者はみな、かつてストーカー行為をしたことがあるといいます。
「あんまり女性経験なかったので…。30通40通とか既読はつくけど、返事来ないんで電話もしたんですけど、結局、警察からストーカーの口頭警告を受けて…」
「一回付き合っていた女の子途中で別れたんですけど、コンビニの前で待ってみたりとか、電話をかけて待ち伏せみたいな感じ」(参加男性)

ここでは、精神科医も立ち会い、二度とストーカーをしないよう自身の感情をコントロールする方法などを学んでいます。

「キーワードアクション。例えば、私は今誰々に接触しなくても大丈夫と。習得することで、衝動を止める治療法が条件反射制御法の第1ステージ」(守屋代表)

■同僚女性に好意寄せ…エスカレート 「抑えられなくなって」

橋本さん(33・仮名)

このプログラムに参加していた、愛知県の橋本さん(33・仮名)。30代の同僚女性にプライベートの悩みを相談したことがすべてのはじまりでした。

「もっといっぱい話したいことがあると、(コロナ禍で)テレワークだったので出社する日を聞いて、会って話もしたりとか…。自分の嫁さんがこういう人だったらいいなと思っちゃった」(橋本さん)

コロナ禍でテレワークが多くなり、会う機会は減ったものの、職場やSNSで悩みを聞いてもらっているうちに、徐々に同僚女性に好意を寄せていった橋本さん。

やりとりのイメージ

しかし、時折相手からの返信が滞ると…。

「だんだん我慢できなくなって…。本当に返事が来ない。何をしても既読つかないし、何をしても返事が返ってこないから、5通とか10通とか送ったことがあった。LINEが来ないから手段を変えてメールを送っちゃって、あと社内チャットとかでも送っちゃって…」(橋本さん)

返信が来なくなるたびに孤独感や不安が押し寄せたという橋本さん。実はこの同僚女性のほかにも、過去に同様のストーカー行為をしたことがあったといいます。

「これ以上いくと収拾つかなくなるのが、なんとなく経験的に分かっていたんですよ。分かっていたんだけど…、本当に分かってるんだけど…、衝動というか禁断症状的なものが抑えられなくなっちゃって…」(橋本さん)

こうした執拗(しつよう)な連絡に恐怖を感じた同僚女性は上司に報告。会社は警察に相談はせず、更生プログラムを受けるよう橋本さんに促しました。

プログラムを受けるため、ほぼ毎週、愛知と大阪を行き来している橋本さん。実は、妻と子どもがいる既婚者です。

記者:奥さんのリアクションは?
「違う女性に依存してしまったことにかなりショックを受けていたんですけど…」(橋本さん)

半年ほど通った更正プログラムも順調に進み、終了間近。以来、同僚女性とは一切接触していませんが、どこか不安げな様子も。

「正直、不安は不安ですよね。たぶん同じ人にはやらないと思うんですけど、違う人ですよね。 (精神的に)弱ったときに助けてくれそうとか、そういう人が現れたときに考えちゃうというか」(橋本さん)

簡単ではないストーカー加害者からの脱却。橋本さんもこのあとその壁にぶちあたるのでした。

■コロナ禍で増加 “SNSを介する”ストーカー行為

ストーカー行為に関する相談件数(警察庁調べ)

ストーカーの相談件数は高止まりを続けています。警察庁によると去年は2万189件の相談が警察に寄せられたということです。

特に新型コロナの影響で会話を交わす機会が減り、ネットやSNSを介してストーカー行為をする ケースが増えているといいます。

「(新型コロナの影響で)鬱憤(うっぷん)がたまって、相手に過度なメールや電話をしてしまう。SNSで簡単にネットストーカーができてしまう時代」(守屋代表)

ストーカー被害を受けた女性

そのSNSがきっかけでストーカーの被害にあい、命の危険にさらされたという四国出身の40代の女性。

ペットについて交流するSNSで40代の男性と出会ったのがきっかけでした。

「ペットのやり取りをするのに直接会ったりして、そこから知り合ったんですけど、一方的に連絡が だんだん頻繁になってきて…」(ストーカー被害を受けた女性)

男性は好意を寄せるようになり交際を申し出ましたが、女性には交際相手がいたため拒絶。すると男性の行動が一変していったといいます。

「嫌がらせをするんですよ。友達の仕事先も探して連絡したりとか。周りになんせ嫌がらせするんで、結局は言うこと聞かないとまわりに迷惑がかかるんで…」(ストーカー被害を受けた女性)

嫌がらせのために女性の仕事先や友人のもとにまで押しかけたという男。

実際のやりとり

さらに連絡も日に日に増していき…。

「LINE、ショートメール、メール、電話、24時間関係なく来るんですよ」(ストーカー被害を受けた女性)

実際のメッセージのやりとりを見せてもらうと、返信をしていないのにもかかわらず立て続けに「折り返しお電話ください。折り返しお電話ください!」というメッセージが。

顔や腕には痛々しいあざ

連絡を無視することで周囲に迷惑がかかることを懸念し、押しかけてくる男と、しぶしぶ会うことにした女性。すると、男が衝撃の行動に。

「『彼氏と別れないと殺す』と包丁で脅された。その時にけっこう殴られて…。だいたい見えないところを殴られる」(ストーカー被害を受けた女性)

女性の顔や腕には痛々しいあざが。命の危険を感じた女性は警察に相談。男には接近禁止が命じられ、女性は逃げるように県外に引っ越しました。

「関わりたくない、見たくもない。見たら過呼吸起こします。 (出会う前に)戻れるんだって思って、そのまま戻りたいと思いますけど…」(ストーカー被害を受けた女性)

■プログラム終了…と思いきや“重大事実”発覚

ストーカー・リカバリー・サポート 守屋秀勝 代表

去年末。「どうしても伝えたい重大なことがある」という連絡を受け、急きょ、元加害者・橋本さんの更正プログラムを行っている守屋さんのもとへ向かいました。

訪問した部屋の中には更正プログラムを終えようとしていた元ストーカー加害者の橋本さんの姿が。

「重大な事実を隠していることが判明しまして。(同僚女性に対して)本来ではありえない暴言を吐いて、執拗(しつよう)に電話もしていたことが判明した」(守屋代表)

守屋さんが橋本さんの会社に更正の進捗を報告しにいったところ、同僚女性に対し、より悪質なストーカー行為をしていたことが発覚したのです。

「実際はLINEで『もう俺の言うことが聞けないのか』とか、『俺と一緒になって、地獄に落ちてくれ』と。重大なことを隠すことは本当に回復したことにならない」(守屋代表)

守屋さんと橋本さんの会話

なぜ、隠していたのか。黙って聞いていた橋本さんが話し始めました。

「多分、自覚してなかったというか、覚えてないところがあったので、相手から見たら故意に隠しているだろうって思うのも仕方ないのかなとも思います」(橋本さん)

「これまで2回ストーカーやっているよね。(相手は)同じようなタイプと聞いています。タイプ同じような女性が現れたら、3回目もやるんじゃないかと周りも見る」(守屋代表)

事態を重く見た会社側も、橋本さんの処分を検討しているといいます。

「書いているLINEも人によって解釈の差が出るし、言動も当然相手によって受け止めかたが違う。自分の中ではどうしようって悩むところもあるんですけど何日かいろいろ考えて、今ある現実を受け止めるしかないのかなって」(橋本さん)

「回復したいんでしょ?回復したくなければ、やらんくていい。プライドなんか、かなぐり捨てろ。プライドなんかなんの役にも立たん」(守屋代表)

■約5か月後 更生プログラムの行方は…

元ストーカー加害者 橋本さん

今年5月。私たち取材スタッフは橋本さんの近況を聞くため名古屋市内で待ち合わせることに。

仕事終わりだという橋本さん。家族や上司と相談した結果、勤めていた会社を退職していました。

「年明けからとにかく転職しようと。4月から新しい会社で働いていて。前の会社にも迷惑かけたくないっていうのがやっぱりあったんで…。自分の人生とかキャリアとかに関しては相当未練もある」(橋本さん)

卒業するはずだったストーカーの更正プログラムは、また振り出しから受け始めたたといいます。

「無意識なちょっとした自分の行動が、実は相手を支配していたりとか、なんとなく分かるようになってきたので、そういうことはしないでおこうと。(ストーカーする前に)戻れるなら、戻りたいですけどね」(橋本さん)

ストーカー行為は決して許されることではありません。

守屋さんは、自分がストーカー行為をしていると自覚していても、やめることができない状態の場合、長期にわたって医師や家族、専門家らによるサポートが重要だといいます。一方で、加害者へのサポート体制が十分でないことも課題になっているということです。

警察は、恐怖を覚えたら迷わず相談してほしいと呼びかけています。