
初公判に向けて準備中だったはずの元日産自動車トップが、「迫害から逃れる」として無断でレバノンに渡っていた。日産前会長、カルロス・ゴーン被告(65)の国外逃亡が明らかになった大みそかの31日、法曹関係者からは一様に驚きの声が上がった。全面無罪を訴えてきた弁護団は「寝耳に水」と困惑し、有罪に自信をみせていた検察は「真相解明が遠のいた」と憤った。
【動画】ゴーン被告出国に驚く弘中弁護士
「テレビのニュースで出国を知り、ただただ驚いている」。前会長の弁護人、弘中惇一郎弁護士は31日午後、東京都千代田区の事務所前で取材に応じた。
前会長と弁護団は、迫る初公判に向けて準備を重ねていた。2019年12月25日には、東京地裁で争点を絞り込む公判前整理手続きが開かれたばかりで、前会長も出席。弘中弁護士が前会長に会ったのはその日が最後で、年明けの1月7日には前会長と弁護団の会議を開く予定だったという。
弘中弁護士は、前会長から事前に出国の連絡は一切なく、パスポートも弁護団で保管していたといい、「背景に大きな組織が動いたとしか思えないが、心当たりはない」と述べた。
海外渡航が禁止されている中での逃亡に対する責任を問われると「四六時中、管理することはできない。なんとも言いようがない」と漏らした。前会長が日本の司法制度を批判していることについては、「保釈条件の違反は許されないが、ゴーンさんがそう思うのも仕方ないと思う点はある」と理解を示し、「無罪を取りたいという気持ちはある。ただ、どうやって本人に連絡していいか見当もつかない状態」と当惑気味に語った。
一方の検察は、前会長の保釈を認めた裁判所の判断に強く反対してきた。事件では、米国や中東各国に捜査共助を要請し、大規模な捜査を展開して証拠を集めていただけに落胆と憤りは大きい。ある検察幹部は「(逃亡は)予想通り。検察の血のにじむような苦労を台無しにした」と怒りをあらわにした。
事件を巡っては、日産元代表取締役のグレッグ・ケリー被告(63)も前会長とともに金融商品取引法違反で起訴されている。弁護人の喜田村洋一弁護士によると、元代表取締役は前会長の出国を知って驚いたといい、自身の公判への影響を気にしていたという。喜田村弁護士は「こちらは変わらず無罪を主張するだけ」と話した。
レバノン大使館が入る東京都港区のビルの前には31日朝から、複数の報道関係者が集まった。ビルの入り口にあるインターホンは誰も応答せず、大使館があるとみられる部屋のカーテンは閉められたままだった。午後1時半ごろに出てきた男性は「ノーコメント」と話して立ち去った。
毎日新聞2019年12月31日回覧