
多様なストレスを抱えて、イライラ、怒っている人が多い現代社会。「怒り」は周囲の人たちに伝染していくといいます。私たちはなぜ怒ってしまうのか、1万人の脳画像を見続け『脳が知っている怒らないコツ』(かんき出版;ゴマブックス)の著者でもある脳内科医の加藤俊徳先生に、脳における「怒り」のメカニズムを伺いました。第1回目の今回は、怒りの本質について考えていきましょう。
怒りは興味があるものに対して脳が理解できないサイン
――まず、「怒り」とは脳にとってどういう状況なのか教えてください。
加藤俊徳先生(以下、加藤): いろいろな人を診察したことで、怒りの本質は「脳が理解できないサイン」だとわかりました。つまり、目の前で起きている現象が「わからない!」という状態。一方で、客観的には、相手のことをもっと理解したいと思っているのです。脳的にそれが「怒りのサイン」として表出しているのです。
――興味があるから「怒り」が沸くということですか?
加藤: 世の中にたくさんある不条理に対して、興味がないと怒りすら湧いてこないですよね。だから実は、怒っている人は対象に対して「もっと知りたい」と思っているのです。よく街でキレている人を見かけますが、あれは「よくわからなくてパニクってるよ」というサインなんですね。「店長を呼んで説明しろ!」と言っているのは、まさに理解を求めている表れだと思います。
――確かにそうですね。でも、怒っているときに一歩引いてみて「自分はいま、理解したいんだ」と認識するのは難しいですね。
加藤: 人間の脳は、AIロボットのように「待って!僕がそれを処理するから。処理したら必ず答えが出るよ」と自分に向かっては言えないのです。だから怒りが込み上げてくることが先立ってしまいます。要するに、いろいろな情報に対して、人間の脳は感度が高いのです。それが怒りのサインとして表出するので、本当は対象物に怒っているのではなく、「今、私の脳は怒り反応が出ている」という反応が適切でしょう。
――実際に、怒っているという自覚がない場合もありますね。
加藤: 怒っている最中は、脳がすごく非効率になります。つまり頭を適切に使って、脳細胞をスラスラ働かせられたら、怒りは生まれてこないのです。
よく「頭に血が上る」と表現しますが、まさにその通り。怒ると脳の血流が過剰に上がって、不必要に酸素を供給します。そうすると脳は適切に判断できなくなってしまうわけです。脳を叱咤激励するために血流が増えるとパニックになって、自分自身を客観的に見られなくなってしまうのです。
――怒っているときにやってはいけないことはありますか?
加藤: まず、判断しないこと。大概の場合、脳の働きが非効率になり、適切な判断ができません。一度非効率になると1時間程度は、頭の血流が元に戻らないのです。だから、時間を置くこともすごく大切です。
脳が暇な人は、怒る人が多い
――もし怒っている人がいたら、どうしたらいいですか?
加藤: その場から立ち去ることが必要です。怒りは感染、連鎖します。それは人間の脳が他人の感情を感じる能力を持っているから。その働きは他人の感情を受け取る右脳で起きるので、普段あまり怒らない人は同調しやすいと思います。上司や友達など、周りに怒りっぽい人がいる人は、要注意ですよ。
もし会社で上司が怒っているなと思ったら、下手に言い訳やご機嫌取りはせずに、1時間程度はかかわらない方がいいでしょう。
――逆に、怒りを感じそうになったらどうすべきですか?
加藤: 簡単な方法は、複数のことを同時にやること。例えば、料理作りながら鼻歌を歌ったり、「1、2、3」って言いながらお手玉していたら、絶対怒れないですよ。ぜひ試してみてください。つまり、怒る人の脳は暇なんです。脳がそれぞれのことに集中していたら、怒っている場合ではないということです。
――脳を意識的に使うことが大切ということですね。
加藤: ある研究によると、利き手ではない手を意識的に使っていると、怒りにつながるまでの時間が延びるといわれています。日ごろから困難なことをやっている人は、怒っている暇がないと思います。
――やはり怒りは「負」なのでしょうか?
加藤: 必ずしも「負」とは限りませんが、かなりの確率で「負」のことが多いですね。正しい怒りであっても、現代社会では、そのままの怒りを表現するような社会の仕組みにはなっていません。例えば、自分の親を殺されて、怒りを感じたからといって、相手を殺していいわけではないですよね。怒りを司法にゆだねる必要があります。
要するに、怒りは異なる表現の脳番地に変換しなければいけません。怒りは感情系なので、伝達系に変えて、絵や文章で表現するなど、アウトプットを変えることが大切です。
――怒り続けることは、脳にとってはいいことではなさそうですね。
加藤: 非効率な脳の状態を続けているので、よくないでしょう。怒ってばかりいる人は実際に脳が未熟だということがわかっています。怒りがエネルギーになり、行動に移せる人もいますが、犯罪以外のかたちに変えていく循環を作っていくといいですね。
(次回もお楽しみに!)
●加藤俊徳(かとう・としのり)先生のプロフィール
新潟県生まれ。脳内科医・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表、 脳番地トレーニングの提唱者。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。1991年、脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科MR研究センターでアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。これまでに胎児から超高齢者まで 1万人以上の診断・治療を行う。2006年、株式会社「脳の学校」を創業。2013年、加藤プラチナクリニックを開設。 脳画像診断外来で、脳の成長段階、潜在能力、得意な脳番地不得意な脳番地を診断し、薬だけに頼らない脳番地トレーニングの処方を行う。
著書に『50歳を超えても脳が若返る生き方』(講談社)、『アタマがみるみるシャープになる! 脳の強化書』(あさ出版)『発達障害の子どもを伸ばす 脳番地トレーニング』(秀和システム)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)『「認知機能検査」合格ガイド付き 50代からの「運転脳」アップ50日ドリル』(講談社), 『楽しい! 大人の「脳活」パズル【知恵の輪2個+パズル付き】 』(宝島社)など多数。
7月21日閲覧