新元号が「令和」に決まり、安倍晋三首相は「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」と説明した。この新しい元号についての分析を、国語辞典編纂者で「三省堂国語辞典」編集委員の飯間浩明さんがTwitterに投稿し話題になっている。飯間さんは、新元号が発表された瞬間、その「音」に驚き、美しさに感心したと話す。

ラ行は「新しさ」の象徴

飯間さんによると、ラ行音ではじまる言葉は大和言葉に存在しなかった。古事記、万葉集などの和歌を見ても、最初にラ行音が来る単語はない。現在もその名残があるという。

例えば、しりとりでラ行音のつく言葉は少なく、ほとんどが外来語である。

語頭のラ行音が日本にもたらされたのは、中国から漢字伝わってきたときだ。以来、大陸から渡ってきた漢字の音読みとして「ラリルレロ」が使われるようになった。「礼儀」「利益」などは音読みだ。

また、江戸時代以降に外来語が輸入され、再びラ行音のつく言葉が広まった。英語やフランス語など欧米諸国では「R」や「L」ではじまる言葉が一般的に使われているからだ。「ラテン」「レモン」「レール」などがそれにあたる。

「日本語で『ラ行』からはじまる言葉は今だに少なく、電話の『リンリン』のような擬音ぐらいしか見当たりません」

語頭のラ行は海外からもたらされた新しい音。新しさの象徴なのだ。

「令和」の構成は伝統的

「萬葉集、巻5-6」

「令和」は『万葉集』の「梅花(うめのはな)の歌」三十二首の序文が出典とされた。

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天平二年正月十三日 帥の老の宅に萃まりて宴会を申く。時に初春の令月にして気淑く風和ぎ梅は鏡前の粉を披き蘭は珮後の香を薫ず。
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「令月(よい月)」と「風和(やわ)らぎ」という2つの熟語の上と下を組み合わせた構成だ。意味合いに関しては「このましく、やわらか」な雰囲気があるという。

このような構成は、飯間さんによると伝統的な作り方だそうだ。例えば、昭和は「書経」の「百姓昭明、協和万邦」の「昭明」「協和」から上と下を取って組み合わせた。「令和」もこれと同じで、2つの二字熟語の組み合わせで生まれた。

なお、平成は「地平天成」「地平天成」という四字熟語的なフレーズから作られたものだという。

伝統は、革新がないと続かない

新元号は、はじめて和書が採用された。

飯間さんは「当初、和書を出典としても、そこに使われている熟語は漢籍由来のものが多いから、漢籍も出典に挙がるのでは、と言われていました。主な漢籍をざっと調べたところでは、『令月』と『風和』の組み合わせは『万葉集』独特ではないでしょうか」という。

厳密には、先行する漢籍にも似たフレーズのものがあるそうだが、完全には一致しない。新しい元号の出典は「日本語らしさ」のある単語になったようだ。

また、飯間さんは今回の出典の選び方についても以下のように評価する。

「『元号の出典は中国の古典にこだわらなくてもいい』という新しい選択肢を生む結果になったと思います」

漢字二文字という大筋の伝統を残しつつ、出典の新しい選択肢と、語頭の「ラ行」という新しい音。

伝統と革新がうまくまざった元号が「令和」なのだという。伝統は、革新がないと続かない。

「今回は、キラキラネームのような突飛な元号が採用されたら……という懸念や、安倍首相の名前から採用するのでは、と言われたりもしましたが、人々の心配を見事に払拭する結果になったと思います。何より美しい響きだと思います」

ちなみに、「令」という漢字は最終画が縦棒になっているが、「マ」のように点にしても間違いではないそうだとされている