<赤ちゃんポスト>戸籍の親、永久に得られぬ 子供6歳過ぎ、特別養子縁組期限切れ

毎日新聞 12月28日(火)15時53分配信

 ◇議論不十分、法的位置付けあいまい

 熊本市の慈恵病院が設置した赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」に入れられた子供の戸籍上の父母が、永久に「存在しない」ことになりかねない事態が起きている。一部の子供が身元不明のまま、特別養子縁組の期限「6歳未満」を過ぎたからだ。ポストの法的位置づけがあいまいな現状では、実の親を捜せず、新たな戸籍上の親も与えられない子供が今後増えることが懸念される。【結城かほる】

 赤ちゃんを匿名で受け入れるポストは07年5月に開設され、今年3月までに57人が入れられたが、2割弱の身元が判明していない。今回6歳を超えた子は、入れられた当時は家族の名前や住んでいた都道府県名を答えられた。しかし、児童相談所(児相)が該当しそうな自治体などに照会しても身元が特定できず、熊本市が戸籍を作り、熊本県内で暮らす。

 商業・医療施設などで子供が置き去りにされた場合は保護責任者遺棄の疑いがあり、警察が身元を調べる。身元が分からなければ、児相が特別養子縁組を念頭に、里親への委託を進める。こうした例では家庭裁判所も「親の意思確認は不可能」として身元不明のまま縁組を認めるケースが多い。

 一方、ポストは病院職員が24時間対応し、内部には保温装置もある。利用自体は「遺棄に当たらない」とされ、捜査の例はない。あくまで「子供を預かる」施設のため、育児放棄と断定するのは困難で、児相は「養子縁組には慎重にならざるを得ない」という。

 熊本市と国は、設置当時、ポストが「違法ではない」ことは確認したが、子供が身元不明のまま育った場合の対応を十分に議論していなかった。特別養子縁組の期限を過ぎても普通養子縁組は可能だが、戸籍上は養父母と養子の関係になり、実父、実母の欄はその後見つからない限り、空欄のままとなる。

 解決策となる法整備について厚生労働省家庭福祉課は「里親委託のあり方などを国の審議会などで検討する」としつつも「現行法の中で運用していくのが前提だ」と消極的だ。

 阪本恭子・ノートルダム清心女子大講師(哲学、生命倫理学)は「子供の利益を考え、特別養子縁組の要件に、年齢制限の緩和や例外規定を設けるなどの対応が必要。ゆりかごとは別の母子支援の仕組みを充実させるべきだ」と指摘した。