『ヴェル・エール ~空白の瞬間の中で~de l'image』 | 空白の瞬間

『ヴェル・エール ~空白の瞬間の中で~de l'image』

17年前の今日、1997年7月19日はMALICE MIZERのメジャーデビューの日です。
ということで『ヴェル・エール~空白の瞬間の中で~』について語ろうと思います。

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7月19日
1st Single『ヴェル・エール~空白の瞬間の中で~』初回完全限定発売
・特殊BOX仕様
・16ページ、ブックレット封入
・スペシャルビデオ付

8月6日
通常盤発売

9月3日
Video『ヴェル・エール ~空白の瞬間の中で~de l'image』発売
・オールフランスロケ作品
・初回限定スペシャルケース仕様
・ポストカード封入

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歴史を振り返ると初回と通常の発売日が結構離れてるのが衝撃なんですが
四天王の時97年8月デビューって紹介されてたけど7月でいいんだよね?
デビューするにあたっての心理とかも語りたいところだけど
今回はずっと書きたかった30分の無声映画の考察メインで進めます。
ミゼラーモードに全力スイッチオンしてから書きたいこと山ほどあって
時間と体力足りなくて下書き準備が溜まってるんですが、可能な限りメキメキ頑張りますよ!

私が買ったのは随分後のことですが、今でも大事にしているよの図。



ビデオとか不自由過ぎてなかなか再生しないし特殊BOXなんて場所取るけど
手放すことなんて考えたことないし、大事な大事な宝物です。
活動停止後にコロムビアがリリースしたDVDを喜んで購入したタイプなので
無声映画のde l'image(ファンの間ではドゥリマと呼ばれてましたね)も
iPhoneに入れて移動中いつでも見れる状態。
メンバーの意図があろうがなかろうがデジタル化されるのは有難いです。



年始にミゼラーさんたちと考察話で盛り上がりまして
Kamiくんが手首を切るシーンが自殺ではないという意味について
長年の疑問符が簡単符に変わるようなヒントをいただきました。感謝。
それで火がついて全編しっかりレポ書こうと思った次第です。
今回の読解レポも全てがクリアになったわけではなく
「謎が謎を呼ぶMALICE MIZER」という定型句に串刺しにされる想いも残るわけですが
とりあえず現時点で見えているものを提示ということで。

さぁ、おとぎの世界へレッツゴー!

鎖に巻かれた本が落下して川を漂流するシーンから始まります。



流れ着いた本は一人の人に拾われます。
本のタイトルは「Pays de merveilles」
この曲リリース直後のツアータイトルも同じで「不思議の国」という意味です。
PVで着ているメンバーたちの衣装が『不思議の国のアリス』のモチーフだし
そのストーリーとリンクしてることは間違いないんですが
あれってアリスが読書中に眠ってしまった夢の中のお話しなんですよね。
ただの夢の話ではなく、本の中に入り込んでしまう不思議な世界への扉です。



ビデオパッケージはこの本と同じだったことから
リスナー自身が不思議の国の扉を開くことを意味しているのだと思っています。
マリスの手法が粋過ぎて痺れるわー(*´Д`*)



本の表紙に2匹の蛇が描かれているのも当然意味がある筈。
蛇は神の使いだとか悪魔の化身だとか諸説ありますが
脱皮を繰り返し新たに生まれ変わる生態から「輪廻転生」を意味するモチーフでもあります。
2匹というのがポイントで、この物語に描かれる恋人たちの輪廻転生がテーマなのではないかと。
Syunikissでは心のない姿だけ蘇らせたり、月下では人形としての生まれ変わりだったり
人間以外のものにも転生して再会を繰り返していきます。

鍵を壊そうとすると、まるで拒むかのように首を横に振るGackt。



鎖を外した瞬間に封印が解かれ、ボッという音と共に記憶が灯されたような映像演出。
広大な緑の大地と青い空の下で女性を抱きかかえるGacktの姿が映ります。
このシーンこそが『ヴェル・エール~空白の瞬間の中で~』なんでしょうね。
どんな経緯でこうなって、どんな想いで抱いているのかが
このドゥリマージュの中で明らかになっていきます。



Verte aile=青い翼
Bel air=広大な澄みきった空

Gacktの閃きでオリジナルカクテルの名前をそのままつけたと雑誌で語られています。
上記の訳も発言通りです。
綴りは違うけど同じ発音の言葉なのであえて表記もカタカナにしたとのことで
歌詞の世界を考えて深く意味を持たせたというより響きが気に入ってるだけのような印象。
青い翼とか映像では出てこないですしね。
無力さを思い知る程のあまりに広い空と、その青い空へ羽ばたいてゆく魂
みたいなニュアンスで受け取ってます。

空に向かって叫ぶGacktの姿。
この空への叫びが後のSyunikissに繋がるのではないかと思います。
と言うと既に哀悼であることが分かってしまいますが、その詳細はこれから。



走馬灯のように色んな記憶が蘇るかのようなシーンからの
悪夢に魘されたように飛び起きるHERO(Gackt)。
これが童話のアリスとのリンクで、夢なのか、現実なのか
別世界で起こったことを知っているという不思議な感覚なんですね。



恐る恐る隣で眠るHEROINE(彼女)を見て、無事を確認。
あれは本当にただの夢なのか?と自問してるのでしょうか。



彼女が目を覚ます頃には馬に乗って出掛けてしまうGackt。
置いていかれたことに気付いて不安そうな表情をし
大慌てで後を追おうとするも止められませんでした。



始終一緒じゃなきゃ嫌というより、こんな時こそ側にいて欲しかったのに…という感じでしょう。
「こんな時」の不安要素の詳細はこの先に描かれます。
HEROINE'S BROTHER(ヒロインの兄)のYu~kiちゃんが慰めるように肩を抱きますが
その程度では癒されない模様。



Gacktは酒場で自暴自棄になっていました。
それを慰めるHIGHER PROSTITUTE(高級娼婦)のMana様。
ストレス発散にキャバクラ行っちゃったみたいな状態ですね(笑)。
Gacktが撃沈している原因は先ほどの悪夢が引き金と思われますが
それにリアリティを持たせる詳細がこの先に描かれていきます。



封印を解いて本を読んでいる人がGacktと同じ場所にいます。
本を開いた瞬間に本の世界が現実となって
読み進めるごとにシーンが展開されていくという感じでしょうか。
同じところにいるというのも何かポイントになってるような気がします。



お酒に溺れるGacktの回想シーンが始まります。

お出掛けする為の帽子を選んで、2人でデートした幸せな時間。
とっても仲良しだったんですね。



ちなみに帽子というアイテムもアリスの帽子屋からきているだろうと思われます。
PVの中ではYu~kiちゃん扮する兄がお茶しながらテーブルに並べた帽子を眺めるシーンがあるので
ヒロインのお兄さんは帽子屋さんだったんでしょうか。ただのコレクション?



アリスの帽子屋は気狂いキャラですが
当時の帽子制作には身体に害を及ぼす水銀を使用していたのが由来とされています。
初期症状で手が震え、幻覚を見たり精神に異常をきたして本当に気が狂うとか。
ライヴではもう1人の自分を鎖でなぶって花を食べるパフォーマンスがあるし
「気狂い帽子屋」の演出としてはしっくりくるけどドゥリマのストーリーとどう繋がるのか分かりません。






デート中の2人が森を抜けてやってきたのは
少し荒んでいる印象を受ける人通りの少ない路地裏。
ここで黒マントの人とぶつかります。
触れあうことの出来る肉体を持って同じ空間にいるという証明なのでしょうか。



この黒マントの人が足を引きずってるのは何か意味があるんでしょうか。
ギリシャ神話に出てくるベレロポンっていう王子がいて
(誤って兄を殺して追放され、身を寄せた先で不倫の誘いを断ったら無実の罪を着せられ)
命じられた通りペガサスを使って怪獣を倒して英雄となったんだけど
調子に乗って天に昇ろうとしたので全能の神ゼウスが蛇を使ってペガサスを刺し
ベレロポンは振り落とされて足を悪くし、以後足を引きずって荒野を彷徨ったという話があるんですが。
全てのエピソードは一致しないにしても、Le cielみたいに空から堕ちた可能性はあるかも?
ちょっとよく分かりません。

恋人たちの様子を影からそっと覗いている人物がいます。



NOBLEMAN(貴族)のKamiくん。
後のシーンでGacktの友人であり家で一緒に過ごすくらい仲のいい友人だと分かりますが
外で会ったら声をかけるのが普通だろうに驚く様子もなくじっと見ています。
2人がここへ来るのを知っていて待ち伏せして本当に行くのか確認していたような。



暗く不気味な地下道を通って幸せなデートの風景から一変します。



奥にはFORTUNE TELLER(占い師)がいました。
現代の感覚だと今日の運勢が何位だとかのような軽さがありますが
元々は宗教的なものであり、神と親交してお告げを授かる儀式です。



占い師から短剣を渡され、彼女の指を切って採血します。



血を受け取った占い師は六芒星の上に乗せ、タロット占いを開始。
六芒星はフリーメイソンの象徴でダビデの星と呼ばれます。
ILLUMINATIはこれとリンクしてるんですね。
六芒星を使ったタロット占いというとヘキサグラムスプレッドという方法があるんですが
本当なら星の中央にももう1枚置く筈なんだけど…
ややオリジナル含めたヘキサグラムスプレッドでいいのかな。



最後に死神のカードがめくられた場所が意味するのは「現在起きていること」
本来のヘキサグレムスプレッドと完全には一致しないので「近未来」かもしれませんが
死の予兆という最悪に不吉な結果。
あえて現在だとしたら既に何かが動いているということであると解釈出来ます。



ところでこれはただの占いではなかったのではないだろうかとする仮説を立てます。
恋人たちは占いのつもりで来ていただろうけど
影からじっと見守るKamiくんの誘導によって訪れていたとしたら罠の香りがします。


ここで回想が一旦終了し、最初のシーンに戻ります。
目覚めに飛び出してしまったGacktに想いを馳せながら窓の外を見つめる彼女。
メイドが運んできた食事も喉を通らない程の落ち込みようです。



ちなみにMana様は高級娼婦とメイドの2役、Koziさんも占い師と道化師の2役やってますが
後に出てくる娼婦とメイドの時間軸が被るので、同一人物ではないと解釈します。

窓の外を見つながらまた彼女の回想シーンに入ります。

彼氏Gacktとその友達のKamiくんがフェンシングで遊んでるのを見守る在りし日の光景。



勝利したGacktに嬉しそうに駆け寄る彼女ですが
これはKamiくんの視線と思われるアングルになっていて
明らかにGacktを見ているのが分かります。



つまり、KamiくんはGacktに恋心を寄せていたのではないかと。
雑誌でも「越えてはいけない一線を越えた」という話があったようです。
となると彼女の存在は当然疎ましいわけで
殺意を覚える程の憎しみを持っていても不思議ではないということになります。

ここで先ほどの占いシーンが深い意味を持ちます。
占い師は言い換えれば呪術師であり
大半は災害余地回避の助言や医療行為に役立てられる善良な占いとされていますが
字の如く、相手を呪う邪術も使える可能性があります。

邪術の同義語である黒魔術はイルミナティと深く関係してきます。
イルミナティは実在した秘密結社で、ルシファーを崇め、世界制服を企んだ悪魔主義。
一文で説明するには奥が深すぎるけど、オカルト要素の強い怪しい宗教団体です。
曲名として取り入れるくらいマリスの世界では重要な存在であり
merveilles全体でお話が繋がっていることを踏まえると関連性は強いと思われます。

つまり、Kamiくんは黒魔術を利用して彼女を殺そうと考えたのではないかと。
Kamiくん自身が魔術を操れる能力はなく、Koziさん扮する呪術師に託したと考えられます。


本をめくり、お話を進めます。
回想が一旦終了してまた現実の時間軸へ。



Gacktが出て行ってしまったことを悲しみ、眠りについてしまった彼女。
兄であるYu~kiちゃんが布団を掛け直し、物思いにふける様子。



ここからまたYu~kiちゃん脳内の回想シーンへ。

皆揃ってお酒片手に余興を楽しむ様子。
この白ピエロは今回特別に招かれたパフォーマーというわけではなく
中世の貴族は宮廷道化師という存在をメイドと同じように所持していて、召使いの1人だそう。
主人を楽しませる役割ばかりでなく
ストレス発散のはけ口として奴隷のような扱いをすることも珍しくなかった程身分が低いらしい。
なのでこの夜は特別なわけではなく、よくある時間の過ごし方という感じ。



道化師が突然苦しみ始めて異変に気付くヒロイン。



仮面を外して、床にあった短刀で手首を切ってしまいます。



後のKamiくんのリストカットシーンは明確に「自殺ではない」と説明されているのに対し
このシーンについてはその否定はなく
鼓動の速度が落ちて止まってしまったことから、死んだのだと思われます。

ライブでは見えない力に腕を引っ張られるパフォーマンスの末にぐったりするシーンがあったので
デスノートみたいに「死因:手首を切って自殺」みたいに呪い殺されたのではないかと。

道化師が死んだのは効力を試す実験です。
それだけ身分の低いどうでもいい命だったというわけです。
驚いているのは恋人たちだけで、Kamiくんの表情は映らないのもポイント。


回想が終了して、横たわる妹と同じ部屋にいる元のシーンへ戻ります。

衰弱して起き上がれない様子の彼女は、横たわったままかすれるような声で兄に囁きます。
無声映画なのに唯一セリフがある特別なシーンです。



「Je voudrais revoir...」と言ってるように聞こえます。
意味は「会いたい」
Syunikissの「最後の言葉」ってこれなのかなーとか。
その言葉を受けてYu~kiちゃんはGacktの元へ馬を走らせます。



ちょうどその頃、本を持った人が扉の中へ。



AU GRAND
BON LOGIS
ST CLAUDE
A PIED ET A CHEVAL



フランス語あんまり自信ないんだけど
「足と馬を休めてお行きなさい」という誘い文句付の宿屋「CLAUDE」の看板で合ってるでしょうか。

中はテーブルとイスがあって綺麗なドレスを着た女性たちがいるので
ただの宿屋ではなくて売春宿なのか、定番の客引きスポットなのかな。
しかし気味悪がって誰も近寄りません。



同じ場所にさっきの状態のままのGacktが。
店員と思われるおじさんも同じ人だし、最初のシーンのままですね。



何故一旦外に出て入り直したのかとも思ったんですがそうではなく
最初の同じ場所のシーンの前に繋がる映像なんじゃないかと。
つまり、Gacktのすぐに近くで本を読み始めてから
この後訪れる2人との時間差も然程なかったということの説明になります。

Mana様がGacktを撫でている位置が頭から腕に変わってはいるものの
恐らく最初のシーンとのデジャブ感を演出しているのではないかと。



お金持ってそうなKamiくんがやってきて誘惑しに近寄る娼婦たち。



しかしそれには目もくれず、Mana様を引き剥がしてGacktと対面します。



さて、ここで1番の難問であるKamiくんが手首を切るシーン。



実は黒魔術とフリーメイソンの第一階級は同じで
入門する際に手首を切る儀式が行われるそうです。
儀式準備としての詳細は簡略化されているようですが
ここでKamiくんがイルミナティに参加したことにより
Kamiくんの願いが叶えられたということに繋がるのだと思われます。

お前何やってるんだ…?というような困惑の表情をKamiくんに向けることなく
慌てて入ってきた彼女の兄に一目散に駆け寄るGackt。
Gacktには現在起きていることの全てが伝わったのだと思われます。



取り乱しながら慌てて彼女の元へ向かうGackt。



間に合ってくれと願うかのようなYu~kiちゃんに反して、涼しげなMana様。
女性が黒魔術に入門する際は娼婦として6ヶ月間働くことになっているらしく
もしかしたらMana様も関係しているのかも、とも思いましたがよく分かりません。



ここで時計が映りますが、この映像の中で時刻を指すのはこの1回のみ。
意味があるのかどうなのかよく分かりません。



家に入って間もなく、彼女の手がベッドから投げ出され、息絶えたことが分かります。



タッチの差で彼女のいる部屋に辿り着いたGackt。



この扉を開けるバーン!という音で、それまでずっと流れていたBGMが止まり
手遅れだったことを悟りながら、ゆっくり彼女に近付きます。



恐る恐る手を伸ばすも、側にいてやれなかった後ろめたさからか触れるシーンは映らず。
後には抱きかかえてるので結果的には触ってるんですが。



絶望して悲しむGackt。



ここからPVになるので演奏シーンは割愛しますが
封印が解かれて記憶が灯った時の最初のシーンにここでようやく繋がります。



PVを挟むと、また映画の続きが。
橋の上に黒マントの人が立っています。



スッと姿が消えて、恋人たちが両端から歩いてくる不思議な展開。



当然2人はすれ違うものの、彼女はGacktに気付かずまっすぐ歩いて行きますが
Gacktは目で追いかけ、最後には背を向けて歩いて消えます。



服装から時代背景が変わったような気がするので
生まれ変わりの再会シーンだったりするのでしょうか。
だから記憶がないとか。
本を読んだ人の願望?いつか生まれ変わって再会出来るように願いを込めたとか?

こんな悪意と悲劇の物語は繰り返してはならないと、鎖と鍵をつけて川へ落とします。



しかしお分かりのように、このシーンは最初に繋がって
永久的な繰り返しをすることになるんですね。

最後に補足。
この黒マントの人は封印を解いた後は宿屋にしか行ってない筈なのに
占いに行く途中のGacktにぶつかったのは
物語が繰り返されて時間軸がめちゃくちゃになっているということなのではないかと。
パラレルワールドというか。

あとドゥリマには出てこないものの、PVとライヴで頻繁に使われている林檎の存在。
籠に入れて配り歩き、食べると死ぬという演出は白雪姫の毒林檎ですね。
旧約聖書のアダムとイヴが蛇にそそのかされて食べた禁断の果実としての意味合いも強いかと。
手に入らないと思うものこそ欲しいという欲望の象徴です。
KamiくんがGacktを求めたように、Gacktもまた亡き彼女を求めてゆくので
merveillesというお話しの中には欠かせないものなのかな。



唯一全く分からないのがメイドの仕事放棄シーンですけども(笑)。
うーん、このメイドはただのメイドじゃないんでしょうか。



まだまだ分からないこともありますが、なんとなく全貌が見えつつある感じ♪
いやー、MALICE MIZER最高ですね!
面白すぎるー!格好良すぎるー!!