身を低く保ちながら、できる限り攻撃音の少ない方向を見極めて走る。タクが最初の爆発で足を負傷していたため、第1部隊はその負担を考えながら逃げていた。

「あっ!」

 突然タカヒトが叫び声を上げ、その場に転げた。ハッと振り返ったコーイチの視線の先、アキラがそこへ駆け寄る。コーイチもタクを一度座らせると、タカヒトの元へ寄った。
「足をひねったようです!」
 よっぽどまずい捻り方をしたのか、タカヒトの足は既に腫れ始めていた。
「これでは走れないな」
「僕の肩に捕まって下さい!」
 負傷者二名。正に絶体絶命だが、そんなことは言っていられない。
 アキラは、支えようとタカヒトの手を取った。

「要らない!」
 しかしタカヒトは、そのアキラを振り切った。
「僕がここで、敵を迎え撃ってやる。お前たちは先に行け」
「そんなことできるわけねーだろ!」
 コーイチが声を荒らげる。タカヒトは、それを鼻で笑った。
「お前ら銃ヘタだから使えないんだよ!僕は射撃のプロだ。ここで、全部仕留めてやる」
「そんな…」
 分かっている。
 この状態でこんな憎まれ口を叩いても、この男には通じない。訓練所からのまだ一年にも満たない時間だが、彼の人の良さと頭の良さは、タカヒトは密かに認めていた。
 だからこそ。
「早く行けよ!」
「…行きましょう!このままじゃ全員死んじゃいます!」
 今ここに、弱虫のアキラがいてくれて良かったとタカヒトは思った。そうだ、全滅するわけにはいかない。
 だから。

「僕が一発撃ったら走れ。絶対、振り返るなよ」
 空に向かって銃を構える。それが何を意味するか、コーイチ、お前なら分かってるよなと背中に語った。

「走れぇ!」

 行け。
 逃げてくれ、僕の仲間たち。
 この音はきっと敵を引き付けて、お前たちを隠してくれるから。

「あーあ。カッコつけちゃった。なーんの得もしないのに」
 最期に浮かべたタカヒトの笑顔は、仲間を想い、穏やかだった。

「…ま、いっか」