2025年6月11日、ブライアン・ウィルソンが亡くなりました。
この時期、「天才」ブライアンを称える論考があちこちに掲載されました。そのような中、あえて僕は、ブライアン以外のビーチ・ボーイズのメンバーの重要性を指摘しておきたいと思います。
なぜなら、ジョン・レノンが亡くなった時のように、ブライアンも神格化され、相対的に他のメンバーの評価が下がることを懸念するからです。
もちろん、僕も「ドント・ウォーリー・ベイビー」、「ウエンディ」、「プリーズ・レット・ミー・ワンダー」などに代表される、初期の夢のような楽曲群、さらには「ペット・サウンズ」での革新的なサウンドを作り上げたブライアンの才能は賞賛すべきものだと思います。
ただ、ビーチ・ボーイズの楽曲が、ビートルズのように普遍的な人気を博したのは、単に音楽的に高度であるというだけでなく、やはりブライアン以外のメンバーによるコーラスの魅力によるところも大きいと思うのです。
ビーチ・ボーイズ(というかブライアン)がジャズ・コーラスグループであるフォー・フレッシュメンをお手本にしたことは有名ですが(彼らの曲をライブで取り上げています)、単に音程の正確さや楽典的な面ではフォー・フレッシュメンのほうが、ビーチ・ボーイズより上だと思います。
ただ、フォー・フレッシュメンと違ってビーチ・ボーイズのコーラスは、それぞれのメンバーの個性が浮き立って聞こえます。もっと具体的に言えば、個々のメンバーの声がわかる「チャーミング」なコーラスなんです(このあたりビートルズと似ています)。とても複雑なのになぜか各パートを誰が歌っているかがすぐにわかる。これは、フォー・フレッシュメンと違う、「素人くささ」がその魅力だと思うんです。
ここに、フォローワーミュージシャンがどれほど音程を正確に取って多重録音でコピーしても(例えば山下達郎氏)、あの「チャーミングさ」が表現できない理由があると思います。
前述の初期の楽曲にしても、ブライアンのみならず、マイク・ラブの少し鼻にかかったコミカルな低音、カール・ウィルソンの優しいファルセット、アル・ジャーディンの少し硬めなテナーなどの個性的な声が一体となっての魅力だと思います。
「ペット・サウンズ」の楽曲にしても、もちろんブライアンが指揮して作り上げたレッキング・クルーによる鉄壁の演奏も素晴らしいのですが、メンバーの魅力的なコーラスという唯一無二の「楽器」があってこそのすばらしさだと思います。
「素敵じゃないか」、「僕を信じて」などもまずはチャーミングなコーラス・パートを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。あるいは、名曲「ゴッド・オンリー・ノウズ」は、カールの優しい声だからこその魅力であることが、後にボックスセットでブライアンがボーカルを取るバージョンが発表されたことでも明らかになったと思います。
この点で、1967年にお蔵入りになったものの、2004年に再構築されて発表されたアルバム「スマイル」は、ファンの間での評価が高いようですが、僕にとっては、やはりメンバーのコーラスあってのビーチ・ボーイズであることを再認識させられただけで、個人的には好きになれません(このアルバムがメインとなるブライアンの来日公演には行きましたが)。
やはりオリジナルメンバーのコーラスによる「グッド・ヴァイブレーション」こそが幻のアルバム「スマイル」の片鱗なのです。
このような意見を持つのも、僕がビーチ・ボーイズにのめり込んだきっかけが、中学2年生の時、FM大阪で田中正美さんが司会の「ビート・オン・プラザ」という番組でアルバム「サーフズ・アップ」全曲を聞いたためかもしれません。ブライアンはこのアルバムに名曲「サーフズ・アップ」こそ提供したものの、彼が不調のため、中心となったのがカールだったと言われています。それ以来50年近くこのアルバムをどれほど聞いたか、どれほど心洗われたかわかりません。
個人的にはカール・ウィルソンの優しいボーカル(時には激しいけれど)、ファルセットが好きだった僕にとってのビーチ・ボーイズは、1998年にカールが亡くなった時点で終わっていたのです。

