とうとう手術の行われる午後になりました。看護婦さんから手術着に着替えるように言われるとともに、オムツやT字帯などの準備をするように言われます。その段階でも手術の時間は決まってません。
そんなときに家族が来てくれました。
妻、子ども、義母が来てくれました。子どもたちは、あまり手術のことは理解していないようで、病室でいつも通り遊んでいます。
義母は自分も昔痔の手術を受けたと話始めました。やはり昔は麻酔があまりよくなく、とても痛かったと話してくれました。これから手術を受ける人に向けて話すことではないだろうと思うとともに、更に恐怖感が増しました。
そして子どもたちが、飽き始めたので義母が子どもたちを連れて、売店にお菓子などを買いに行きました。
妻と二人きりになり、励ます言葉でも掛けてくれるのかと思いきや、先月くらいからずっと検討していたレンジ台とテレビ台についてどれがいいか話始めます。
これから手術なのに、そんな話をしなくても良いだろうとも思いましたが、これは妻の配慮で余計な心配をさせないように、日常の話をしてくれたのかもしれません。結局、手術間近のベッドの上からレンジ台とテレビ台をネットで注文しました。このレンジ台とテレビ台を見たら痔ろうの手術を思い出すかもしれません。
そんなことをしていてもまだ手術が何時から始まるかわかりません。不安で不安でしかたありません。早く教えてほしいなと思っていると、部屋のスピーカーから「ピンポーン!手術の時間は2時30分はからです。準備をお願いします。」と聞こえてきます。
時計を見ると、2時25分でした。
手術は今からと言うことのようです。
直ぐに2人の看護婦さんが部屋に来て、ベットに寝たまま、手術室に向かいます。
エレベーターに乗って一階の手術室に向かうのですが、本当に怖くてたまりません。エレベーターを降りると家族は廊下に置いてあるベンチで待つように言われます。
私は一度トイレに行くように言われ、小便をして、歩いて手術室に行きます。
手術室は正に手術室といった感じで、真ん中に手術台があり、大きなライトが天井からぶら下がっています。
看護婦さんから手術台に乗るように言われ、乗ったあとは横を向いて、膝を抱えるようにして待つように言われます。その間に血圧を図ったり、心電図を取り付けられます。
すると先生が入ってきて、「○○さん、それでは頑張って行きましょう。30分位で終わるからね」と明るく言ってくれます。
まず麻酔をするから、背中に注射するとのこと。他の方の体験記などを読むとこれがなかなかいたいとのことなので、覚悟していたのですが、たいした痛みでは有りませんでした。
それよりも驚いたのが、麻酔の注射をうったら、直ぐにうつ伏せにならなければいけないのですが、その時の看護婦さんたちの素早さにビックリします。そんなに焦らなくてもと思っていると、皆さんで私の体をあっという間にうつ伏せにしてくれました。
すると何となく、足の先が温かくなってきたような感じがします。そしてすこしづつ痺れて来たような気がします。先生が濡れたガーゼを腕につけ、直ぐに足にもつけます。腕に着けたときは冷たいのですが、足につけられたときは冷たさを感じません。
これで麻酔がきいたことを確かめるようです。
それでは始めますと先生が言ったとたん、横にあった機械から「ピー!ピー!」と音がします。ドラマとかでよく聞くあの音です。
先生が「ジョウミャクだね。何かスポーツでもやってたの」と聞いてきます。
最近はめっきり運動なんかしていないので、自信をもってやってませんと答えます。
しかし、機械の音は一向に止まりません。音を聞く限り、更に悪い感じになりました。自分では何でもないのに、周りの先生や看護婦さんたちが慌ただしくなっています。
「大丈夫ですか?心配しないでいいからね。」と周りから言われますが、自分としては何ともないので大丈夫ですと答えます。
更に機械の音が、大きくなった気がすると、「大丈夫だからね。平気だよ。」「もどってこい」などと先生たちが必死に私に声を掛けています。
こんな声を聞いていると、私はこれから死ぬのではないかと不安になります。
そうすると急に苦しく、血の気が引く感じになり、意識が遠くなる感じでした。自分でもこれはヤバいと感じました。
先生から仰向けにするように指示が出て、応援の看護婦さんも来ていただき、仰向けにしてもらいました。そうしたら、苦しいのも楽になり、意識もハッキリしてきました。
先生の話では、麻酔をしたり、うつ伏せになって心臓を圧迫するとジョウミャクになることがあるとのこと。ジョウミャクと言うのは、心拍が減ってしまうことのようです。
手術後に妻と話したところ、手術室内の声がよく聞こえていたため、「大丈夫ですか。戻ってこい」などの声を聞いて、死んでしまうのではないかと思ったと笑いながら話していました。もっと心配してくれ。
仰向けになると、手術台に看護婦さんたちが新たなパーツを取り付けます。よく出産のときに、足を広げるやつです。これはなかなか恥ずかしいのですが、先ほどの死にかけ体験によりそれどころではありません。されるがままです。
「それでは始めますね。」と先生が言ったものの、ただお尻を押すだけで、メスで切っていないようです。
何度も押されるので、横を見ると血に染まった器具を看護婦さんが持っていました。
麻酔が効いているためまるで気づきませんでした。
手術はもう始まっていたのです。手術中は、ずっとお尻やお腹を押されている感じだけで、痛みなど全然ありませんでした。手術前の点滴の方がよっぽど痛かったです。
手術中の先生の声が気になります。「これは酷いね。複雑痔ろうだね。随分放置してたね。」と言われます。
私も手術中ですが、「10年位前からなんです。」などと返答します。
「大分複雑だから背中の方からまわってきてるし、枝分かれしてるよ。少し大きく切る必要があるよ。」と言われます。
「すいません。ご迷惑おかけして」と手術中に謝罪します。
手術中は、痛みなどなく、看護婦さんとも家族のはなしなどしました。本当に痛みを感じる事はなく、あの母と義母の脅かしにびびっていた自分が恥ずかしいのです。
先生から複雑痔ろうだったから、少し時間は掛かりましたが、悪いところは取ることができたとのことでした。
掛かった時間は40分でした。
こんなに痛くもなく、時間も短いなら我慢せず、早く手術すれば良かったと思いました。
手術室を出ると家族が待っていてくれました。嬉しかったです。家族っていいなと改めて思いました。痔ろうの手術は生死に関わることはありませんが、手術を受けると言うのは本当に不安なものです。
ベッドに乗せられ、病室まで行くと点滴をされます。やっぱり手術よりも痛い。手術後は安静で、本を見たり、テレビを見たりすると頭が痛くなるから我慢するように言われます。少しすると子どもたちが帰りたがったので、家族は帰り一人になります。
初めての入院で、初めての手術だったこともあり、緊張していたのか、手術が終わりその緊張から解放されてすぐに寝てしまいました。
点滴が終わりましたよと言う看護婦さんの声で目を覚ますと、下半身が何となく痺れています。麻酔がまだ覚めていないようですが、先程よりも感覚が戻っていました。
よく麻酔が切れると痛いと聞いていたので不安でしたが、ただ痺れているだけで痛くは有りませんでした。
6時になると夕食の時間なのですが、流動食です。重湯と味噌汁の汁だけです。重湯は全然食べる気になりません。味噌汁については、一口だけとおもい口をつけたところ、これが意外と美味しく、全部飲んでしまいました。
その後も安静でトイレに行くことも出来ないため、尿瓶にすることになります。初めての経験でしたが、やはり嫌なものです。
消灯時間になり、部屋が暗くなるといろいろな事を考えますが、いつの間にか寝ていました。
痛みで目が覚めることもあるかもしれないと、痛み止と睡眠薬をもらっていましたが、服用することなく次の日の朝を迎えることが出来ました。
