「で、約束が明日だけど今日も遊びに来る、と。随分と余裕なようじゃない陽平?」
ジロリと冷たい視線を投げかけてくる綾音。
この睨みの意味はなんなのか。
「余裕って、なにも丸一日遊ぶわけじゃないんだし問題ないだろ。それにあとはほとんど得意科目だからそんなに気を張らなくても・・・。」
「ふぅん。応用魔素学と解剖学が楽勝ねぇ。両方とも高難易度なテストの筈なんだけどなぁ~?」
「事実なんだから仕方ないだろ。」
ふぅん、と相変わらずな冷たい視線。おかげでテーブル越しに金縛り状態だ。
「魔素安定に関わる要素3つは?」
「魔素自体の性質、付加させるものの魔素付加容量、外部からの力の3つだろ?」
「じゃあ外部からの力を具体的に?」
「えっと・・・自然界に存在するエネルギーのほとんどと魔素同士の反発力と・・・。」
気まずい沈黙。
「物質の持つ反魔素力。固い、重いものほど魔素が付加しづらいのは当然よねぇ?」
「・・・そうでした。」
「・・・まぁいいわ。明日は私も行くから。あとこれ、ついでに貰っといた。」
「行くって勝手に・・・って、なんだこれ?」
小型の円形をした薄いシート。白っぽい肌色をしていて、なんかしっとりしている。
「妖精拡張キット第一弾。まぁ、リオちゃんの背中に貼ってみなさい。」
言われたようにリオを呼び、服をぺろんとめくる。
そして背中にシートを貼ってみたが・・・。
「なにも起きないぞ?」
「リオちゃん、ジャンプしてみて。」
「え、ジャンプですか?よい・・・しょっ」
パッと、ジャンプと同時に薄い赤色の羽が開いた。
大小のひし形が蝶の羽のように広がり、リオの体は宙に浮いている。
「と・・・わわっ!?」
安定させるのはなかなか難しいようで、リオはふらふらと浮遊し続ける。
これは・・・一体どうなってるのか。
「妖精に飛行機能を与え、お散歩がさらに楽しくなります。バッテリーの消費量は変わらないので、
どうぞ気兼ねなくご使用ください、だそうよ。」
「だそうよ、って、・・・仕組みは?」
「聞くほうが野暮ってもんよ。一応、魔素の技術発展のおかげね。」
「ほらマスター♪もう慣れましたよ♪」
パタパタと上昇したかと思うと、羽を少し畳んだ流線型のフォームで素早く滑空する。
それがなかなかのスピードで、テレビでみたモモンガを思い出した。
「お~、やっぱりリオちゃんのほうがこういうのは得意だったみたいね。」
「ルリはどんな感じなんだ?」
「ルリは・・・こんな感じ。」
パタパタと上昇はするものの、滑空はそろりそろりといった感じで、風に揺れる風船程度のスピードだ。
まぁ、あの性格からしてアウトドア派ではないと分かっていたが、これがキャラ差というものか。
「ね。遅い。」
「いいんじゃないか?そんなに急がないだろ?」
「でも、100%を発揮できなかったら嫌じゃない。」
そうだった。綾音はそういう奴だった。
「という訳で、リオちゃんにコーチをお願いするから、ルリに教えてあげてくれる?」
「はい♪頑張ります♪」
「・・・よろしく」
そんなこんなで、リオがあっさりとコーチの話を受けて訓練開始。
危なくないようにベッドのある所でやるそうで、俺たち二人はすっかり暇になってしまった。
「しかし、ここまでくるともう魔法だな。」
「魔法のような効果を与える物質だから魔素。魔法をおこすべくして名づけられたんだから
こんなの朝飯前なんじゃない?」
「でもあんなシール一枚で飛ぶんだからすごいって。あれのでかいの作ったら人も飛べるとか?」
「たとえ浮かんでも背中の皮はがれて落ちるわよ?人間と妖精じゃ魔素との相性も違うわけだし。」
「相性?」
「自然界のほとんどのものは外部からの魔素に対して敵対的なの。でも妖精は別で、あえて友好的に
作られてるのよ。」
「じゃあ、色々な魔素が付加しやすい訳だよな?で、容量はどうなんだ?」
「容量も人間の比じゃなくて、ざっと一般男性の3人分は大丈夫そうね。」
「そうねって、どこからそんな情報持って来るんだよ?
「ん?そんなの自分で調べたに決まってるじゃない。」
「自分でって・・・はぁ。」
気になりだしたら他の事に一切わき目も振らず、ひたすらに追求するのが綾音の良い所であり
悪い所でもある。今回の場合、それでルリに変な実験とかしてなければ良いのだが。
「・・・危ないことなんてしてないわよ?昔とは違うんだし。」
「ならいいけど。」
なんて話ながらお茶を飲み、さらに話すこと一時間弱。
来客を告げるインターホンが聞きなれた音を鳴らした。
「珍しいわね、私以外の来客なんて。」
「事実だがやめてくれ。」
冗談交じりにドアホンを取り、相手を確認する。
「どちら様ですか?」
「どちらさまも何も俊介なんだが、ちょっと入れて貰えないかねぇ?」
「断ってもいいか?」
「いや、開けてくれよ。今回はマジな用なんだよ。」
「分かった。開ける。」
開けなくても良いのに、なんて言う綾音を無視して玄関に向かい安っぽい扉を開く。
ギギ、なんて音を立てて開いた扉の先には、全く見覚えの無い小さな女の子が立っていた。