第17話 タグとは何か
夜の駅裏。終電が去ったあと、静まり返ったコンクリートの壁に、ソウマは昼間見た文字を思い出していた。「LOVELETTER」とは違う、速くて、鋭くて、読めない文字。
そこへカズが現れる。「それがタグだ。名前みたいなものだな」
ソウマは首をかしげる。「でも、読めないよ」
「読ませるためじゃない。残すためだ。どれだけ街に自分の名前を置けるか。それがこの世界の一つの基準になる」
ソウマは壁を見つめる。同じ形の文字が、あちこちにあることに気づく。「これ、同じ人?」
「そうだ。目に入る回数が増えるほど、その名前は強くなる」
翌朝、学校へ向かう途中。電柱、ガードレール、看板の裏。昨日と同じ形のタグが点々と続いている。まるで道しるべのように。
放課後、ソウマはノートに自分の名前を書いてみる。何度も書き直し、少しずつ形を変える。その中で、一つだけ妙にしっくりくる形があった。
夜。橋の下。ソウマは深く息を吸う。「一回だけ」
スプレーを軽く押す。短く、速く、一筆で終わる。初めてのタグ。だが、その瞬間、背後で足音が止まる。
振り返ると、知らない男が立っていた。低い声で言う。「その形、どこで見た?」
ソウマの胸が強く鳴る。偶然作ったはずの形。しかし男の目は明らかに警戒していた。
カズが一歩前に出る。「行くぞ、ソウマ」
二人はその場を離れる。遠くで電車の音が響く。
帰り道、カズが小さく言う。「今のは、ただの偶然じゃないかもしれない」
ソウマはポケットの中で手を握る。自分のタグ。その形が、誰かの記憶とつながっている気がした。
そして翌朝、街の別の場所で同じタグが見つかる。ソウマが書いたはずのない場所に。
第二章は、ここから始まる。