第19話 グラフィティーの名前の作り方


昼下がりの河川敷。

人の少ないコンクリートの壁に、ユナはチョークで線を引いていた。


「名前はね、ただの文字じゃない」


ソウマはノートを開く。「じゃあ何?」


「動き」


ユナは短く言って、素早く線をつなげる。止まらない。迷いもない。


「最初からうまく書こうとしない。まずは形を決める」


「形…」


ソウマは「LOVELETTER」と書いてみる。だが長い。遅い。


ユナが首を振る。「それだと、間に合わない」


「間に合わない?」


「タグは一瞬で書く。だから短くする」


ソウマは考える。「LOVE…だけ?」


「それでもいい。でも大事なのは、他と違うこと」


そのとき、足音が近づく。


昨日の男だった。


「やっぱりお前か」


ソウマの手が止まる。


「その形、昔からある」


ユナが前に出る。「どこで?」


男は壁を指す。少し離れた場所に、古びたタグがあった。


似ている。


いや、ほとんど同じ。


「これ、誰の?」


男は少しだけ迷って言う。「消えたやつの名前だ」


空気が変わる。


ソウマはノートを見る。自分が作ったはずの形。


「なんで同じになるんだ…」


ユナが静かに言う。「偶然じゃないかもね」


夕方。三人はその場を離れる。


帰り道、ユナが話し始める。


「名前の作り方は三つある」


ソウマは顔を上げる。


「一つ、自分の名前をそのまま使う。二つ、音を変える。三つ、意味を込める」


「意味?」


「自分だけがわかる意味。それが一番強い」


ソウマは立ち止まる。


「じゃあ、“LOVELETTER”は?」


ユナは少し笑う。「それはもう、メッセージだね」


夜。自室。


ソウマはノートに何度も書く。


LOVE

LETTER

LOVELETTER


そして、その下に短く書く。


L2

LL

L


だが、どれもしっくりこない。


ふと、あの古いタグを思い出す。


なぞるように書いてしまう。


同じ形。


その瞬間、背筋が冷える。


(※この「消えた人物のタグ」とソウマの形の一致が、第80話で重要な意味を持つ伏線)


窓の外で、スプレーの音がする。


誰かがまた、同じ名前を書いている。


ソウマはペンを止めた。


「これは、自分の名前なのか…?」


第二章は、さらに深くなる