第75話 街の人の反応


昼。


巨大壁の前には、人だかりができていた。


通学中の高校生。


仕事帰りのサラリーマン。


買い物帰りのおばあさん。


みんな足を止めて、巨大な“Love letter”を見上げている。


銀色の文字。


街の景色を取り込んだ線。


紫に浮かぶ昔の作品。


そして中央の、“NEXT”。


ユナは少し信じられない顔だった。


「こんなに人が来るなんて…」


ソウマは壁の陰に隠れて様子を見ている。


なんだか落ち着かない。


第一章では、ただ“見上げる側”だった。


それが今、自分の作品を誰かが見ている。


小学生の男の子が言う。


「この矢印、駅まで続いてる!」


別の女の子が笑う。


「ここ、ハートに見える!」


作品の中に隠した小ネタ。


街の形。


昔のタグ。


気づく人もいる。


気づかない人もいる。


でも、それでよかった。


RAVENが缶コーヒーを飲みながら言う。


「“説明しなくても伝わる”ってのが、一番強い」


その時。


年配の男性が壁を見上げて止まった。


そして、小さくつぶやく。


「…まだ残ってたのか」


カズさんが静かに目を細める。


その男性は、昔の“Love letter”を知っていた。


第四章で語られた、過去の時代。


街の人たちは忘れていなかった。


ただ、言葉にしていなかっただけ。


TRACEは笑う。


「街ってのは、ちゃんと覚えてる」


その時、SNSでも作品が広がり始める。


『駅裏の巨大グラフィティーやばい』


『これ誰が描いたの?』


『昔の作品とつながってるらしい』


ユナがスマホを見せる。


ソウマは少し困った顔をする。


「変な感じだな…」


有名になりたかったわけじゃない。


でも、自分の線が誰かへ届いている。


その感覚は、少し嬉しかった。


だが次の瞬間。


壁の端に、新しい黒タグ。


“NOX”


周囲がざわつく。


敵グループの名前。


でも、その横には小さく矢印。


そして英語で一言。


『KEEP GOING』


RAVENが笑う。


「兄貴らしい」


もう“NOX”は敵だけじゃなかった。


壊すための名前じゃない。


次へ進ませるための役だった。


ソウマは壁を見上げる。


第一章から続いた“Love letter”。


ついに完成した。


でも、不思議と終わった感じがしない。


その時。


小学生くらいの少年が、壁の前でノートに何かを書き始めた。


ぎこちない線。


小さなタグ。


それを見たソウマの目が止まる。


少年は気づかず、夢中で描いている。


昔の自分と同じ顔だった。


カズさんが静かに言う。


「始まったな」


ソウマは小さく笑う。


“Love letter”は、一つの作品じゃない。


誰かから誰かへ渡っていく。


終わらない手紙なんだ。