第63話 文字デザインを作る


深夜のゲームセンター跡。電気の切れた建物の中で、ソウマは床に紙を並べていた。


“Love letter”。


今まで描いてきた形が、全部散らばっている。


丸い文字。


細い文字。


王冠付き。


矢印入り。


でも今日は、“一つに決める日”だった。


ユナが缶コーヒーを置く。


「まだ描いてたの」


ソウマはうなずく。


「テーマは決まった。でも、形がまだ弱い」


街全体をつなぐ作品。


なら、一目で“同じ作品”だと分からなきゃいけない。


カズさんは古い壁を見ながら言う。


「昔、RAVENの兄が言ってた」


ソウマが顔を上げる。


「“いいタグは、遠くでも本人だって分かる”ってな」


その瞬間、ソウマの中で何かがつながる。


ただ上手いだけじゃダメ。


“誰の線か”が見える形。


それが必要なんだ。


RAVENが近づき、紙を一枚取る。


「これだな」


選んだのは、一番シンプルなデザイン。


太い“L”。


流れるような“letter”。


小さな王冠。


そして最後に、前へ伸びる一本の矢印。


ソウマは驚く。


「それ、地味じゃない?」


RAVENは首を振る。


「街で見ると、一番残る」


派手さは一瞬。


でも形は、記憶に残る。


TRACEも壁際から言う。


「消されても、形だけで分かる線が強い」


その時、突然シャッター音。


全員が振り向く。


NOXだった。


暗闇の奥から現れる。


白いマスク。


「完成したか?」


NOXは床のデザインを見る。


そして笑った。


「面白い」


でも次の言葉で空気が変わる。


「その形、昔見たことある」


ソウマが止まる。


「…え?」


NOXは壁にスプレーで素早く描く。


古いタグ。


それは第一章で見た、最初の“王冠マーク”だった。


しかも、ソウマの新しいデザインとよく似ている。


ユナが息をのむ。


「まさか…」


NOXは静かに言う。


「お前、本当に“初作品”だと思ってるのか?」


意味深な言葉。


カズさんの表情が変わる。


RAVENも黙る。


ソウマだけが混乱していた。


NOXは去り際、最後に残す。


「お前の“Love letter”は、もっと前から始まってる」


静寂。


ゲームセンター跡に残ったのは、新しいタグのデザイン。


そして、“自分の作品だと思っていたもの”への違和感だった。