第62話 テーマを決める


朝焼け前の河川敷。冷たい風の中、ソウマは一人でスケッチブックを開いていた。


“Love letter”


何度も練習した文字。


でも今日は、その先を考えている。


第五章。


街全体を使う、最初の作品。


「テーマが必要だ」


カズさんの言葉が頭に残っていた。


うまいだけじゃ、人は止まらない。


意味が必要になる。


ソウマはページをめくる。


王冠。


矢印。


立体文字。


全部、今まで覚えてきた技。


でも、それを“何のために使うか”が決まっていない。


その時、自転車のブレーキ音。


TRACEだった。


「まだ悩んでるか」


ソウマはうなずく。


「街に何を残したいのか、分からなくて」


TRACEは川を見る。


朝日が少しずつ水面に広がっていた。


「昔のライターはな、“自分の存在”を残したかった」


名前を書くことで、生きてる証明をした。


「でも、お前は違う気がする」


ソウマは黙る。


確かに、自分は目立ちたいだけじゃない。


誰かに見つけてほしい。


つながってほしい。


消えそうなものを、残したい。


その時、ユナからメッセージ。


『駅裏、来て』


急いで向かう。


駅裏の古いトンネル。


そこには、昔ソウマが初めて見たタグが残っていた。


小さな“Love letter”。


第一章の始まりの場所。


でも今日は違った。


その周囲に、無数の矢印が増えている。


全部、別々の方向を向いていた。


RAVENが壁にもたれている。


「気づいたか」


ソウマは壁を見る。


矢印。


王冠。


タグ。


今までバラバラに見えていたもの。


でも、矢印をたどると――


全部、“巨大壁”の方向を向いていた。


ユナが息をのむ。


「最初から…つながってた?」


RAVENは静かに言う。


「兄貴の作品は、一枚じゃない」


街全体だった。


タグも、王冠も、矢印も。


全部が、一つの巨大な“Love letter”の一部。


ソウマの背中に鳥肌が走る。


第一章から見てきたもの。


全部、意味があった。


その時、NOXの声。


上の歩道橋。


白いマスクが立っている。


「やっと見えたか」


NOXは笑う。


「だから俺たちは、それを全部塗り替える」


街そのものを、自分たちの作品にするために。


ソウマは壁を見つめる。


もうテーマは決まった。


「…つなぐ」


消えた線。


残された意味。


バラバラだった街。


全部を、一つの“Love letter”にする。


それが、自分の初作品だった。