第58話 自分の作品を作りたい


昼の学校の屋上。フェンス越しに見える街には、あちこちに“N O X”の文字が増えていた。


目立つ場所ほど、NOXに押さえられている。


ソウマはノートを広げる。


「Love letter」


何度も書いたはずなのに、今日はしっくりこない。


ユナが隣に座る。


「どうしたの」


「足りない」


短く答える。


「うまくなったし、形も決まってきた。でも…自分の作品って感じがしない」


ユナは少し考えて言う。


「“誰のために描くか”が決まってないからじゃない?」


その言葉に止まる。


これまでは、上手くなること、認められること、守ること。


でも“誰に向けるか”は、はっきりしていなかった。


その時、ドアが開く音。


RAVENとカズさんが入ってくる。


「ちょうどいい話してるな」


カズさんはノートを見る。


「作品ってのは、“見せる相手”で変わる」


RAVENも続ける。


「兄貴は、この街に向けて描いた」


だから巨大な“LOVE LETTER”になった。


「お前は誰に向ける」


静かな問い。


ソウマは街を見る。


駅前。工場跡。高架下。


消された壁。残った線。


そして、まだ何も知らない人たち。


「…まだ決めきれない」


正直に言う。


すると、後ろから拍手。


振り向くと、NOXのメンバー。


いつの間にか屋上にいた。


「いい悩みだ」


軽い口調。


「でも時間はないぞ」


ビルの上を指さす。


また一つ、“N O X”が増えている。


「街はもう、動いてる」


男は笑う。


「作品を作るなら、場所も奪え」


それがNOXのやり方。


強い場所に、大きく残す。


ソウマは首を振る。


「違う」


小さく言う。


「オレは、見つけてもらう作品を作る」


ユナが驚く。


RAVENも少し目を細める。


「どういう意味だ」


ソウマはノートに線を引く。


点と点をつなぐように。


「一つじゃなくて、いくつもで一つにする」


街のあちこちに“Love letter”を残す。


それをたどると、一つの作品になる。


消されても、どこかが残る。


全部で意味になる。


カズさんが静かに言う。


「それなら…NOXの逆だな」


NOXは一か所を支配する。


ソウマは街全体でつなぐ。


RAVENが小さく笑う。


「やっと“自分の作品”になってきたな」


ソウマはうなずく。


「やる」


その瞬間、風が強く吹く。


街のあちこちの“NOX”が目に入る。


でも、その隙間も見える。


まだ、全部は埋まっていない。


ソウマはつぶやく。


「全部、つなげる」