第24話 グラフィティーのサイン文化


朝の高架下。まだ人通りが少ない時間、ソウマとユナは、壁一面に並ぶ同じような文字を見て立ち止まった。


「これ、全部同じ名前に見えるけど…なんで何回も書くの?」


ユナの問いに、カズさんは少しだけ笑った。


「これはな、“サイン”だ。自分がここにいたって証明みたいなもんだよ」


ソウマは壁に近づき、よく見る。同じ文字でも、太さや形が少しずつ違う。


「でも、ただの名前にしか見えない」


「そこが大事なんだよ。誰よりも目立つ形にする。速く、何度も、いろんな場所に残す。それで初めて“存在”になる」


カズさんは指で一つのサインをなぞった。その横には、小さく矢印が付いている。


「これ…昨日の矢印と同じ?」


ソウマが気づくと、カズさんは少しだけ間を置いた。


「気づいたか。サインはただの名前じゃない。つながりも持つ」


さらに奥の壁には、見覚えのある王冠マークがあった。その下にあるサインは、他よりも丁寧で、どこか強い印象を持っている。


ユナが小さくつぶやく。


「この王冠の人、特別ってこと?」


「そうだな。少なくとも、この辺りではな」


ソウマはそのサインをじっと見つめた。昨日とは違う位置に、新しく書き足されている気がした。


「増えてる…?」


「動いてるんだよ、こいつは」


カズさんの言葉は短かったが、その意味は重かった。


そのとき、遠くでスプレーの音が一瞬だけ響いた。三人が振り向いたときには、もう何も見えない。


ただ、さっきまでなかったはずの場所に、新しいサインがひとつ増えていた。