第23話 矢印の意味


夕暮れの河川敷。風で草が揺れる中、ソウマはコンクリートの段差に腰かけ、昨日見た王冠のタグを思い出していた。ユナは少し離れた壁を指さす。「ねえ、あっち見て」


そこには、見覚えのある印。その横に、小さな矢印がいくつも描かれていた。すべて同じ方向を向いている。「これ…前はなかったよな」ソウマが立ち上がる。


カズさんが後ろから歩いてくる。「気づいたか。矢印は“向き”を示す」

「向き?」ユナが聞き返す。


「どこへ進んでるか、どこから来たか。描いたやつの“流れ”だ」カズさんは壁に近づき、一本の矢印を指でなぞる。「ただの飾りじゃない。意味があるやつは、ちゃんと方向がそろってる」


ソウマは目をこらす。確かに、全部同じ向きだ。そして、その先をたどるように視線を動かすと、少し離れた場所にも同じ印があることに気づく。「これ…つながってる?」


ユナも歩き出す。「ほんとだ、こっちにもある」


三人は矢印を追うように歩く。夕焼けがだんだん暗くなり、街灯がつき始める。矢印は途切れず、少しずつ場所を変えながら続いていた。


「まるで道しるべみたいだな」ソウマが言う。


カズさんは短く答える。「そう使うやつもいる」


しばらく進むと、最後の矢印の先に、あの王冠のタグがあった。しかも今度は、王冠の下の“細い線”が少し長くなっている。


ソウマの心臓が強く鳴る。「これ…昨日より変わってる」


ユナが小さく言う。「誰かが、続けてる」


カズさんはしばらく黙ってから口を開く。「矢印はな、“ここに来い”って合図にもなる」


その言葉で空気が変わる。ソウマは壁を見る。矢印、王冠、そして未完成の線。全部が一つの流れになっている。


「じゃあ…オレたち、呼ばれてるのか?」


カズさんは否定しない。「どう受け取るかはお前次第だ。ただし、行くなら覚悟しろ」


風が止み、あたりが静かになる。遠くで犬の鳴き声がするだけだ。


ソウマは一歩前に出る。自分の中で何かが決まる。「行く。最後まで追う」


ユナも迷わずついてくる。「私も」


その瞬間、最後の矢印の先、さらに奥の暗がりに、かすかに新しい線が引かれる音がした気がした。


三人は同時に顔を上げる。しかし、そこには誰もいない。


ただ、矢印はまだ続いている。


この“矢印の先”が、第30話で明らかになる「待ち合わせの場所」へつながっていることを、今はまだ知らない。