夕方の橋の下。


ソウマはいつもの場所で壁を見ていた。

小さなタグがいくつか増えている気がする。


「また見に来たのか。」


後ろから声がした。

振り向くと、あの自転車の男だった。


「最近、ここが好きなんだ。」


ソウマは少し笑った。


男は壁を見ながら言った。


「だいぶ目が慣れてきたな。」


ソウマはふと聞いた。


「ねえ、日本のグラフィティーって小さいよね。」


男はうなずいた。


「そうだな。」


「でも外国の写真を見ると、すごく大きいよね。」


ビルの壁いっぱいに描かれた絵。

電車に描かれたカラフルな文字。


ソウマは前に見た写真を思い出していた。


「どうしてこんなに違うの?」


男は橋の柱にもたれた。


「一番の違いは、文化だ。」


「文化?」


「簡単に言うと、グラフィティーの考え方が違う。」


ソウマは首をかしげた。


「どう違うの?」


男は地面に小さな石を転がした。


「海外では、グラフィティーは“勝負”みたいなものなんだ。」


「勝負?」


「誰の名前が一番有名になるか。」


ソウマは驚いた。


「名前で?」


「そう。たくさんの場所に自分の名前を描いた人ほど知られる。」


男は続けた。


「だから電車や高い壁に描く人もいる。」


ソウマは壁を見た。


「危なくないの?」


「かなり危ない。」


男は少し笑った。


「でもそれも含めて文化なんだ。」


ソウマは考えた。


「日本だとそんなことしたら大騒ぎになりそう。」


「その通り。」


男はうなずいた。


「日本は街をきれいにする考えが強い。」


「海外は違うの?」


「場所によるけど、グラフィティーが街の文化として残っている場所もある。」


ソウマは少し想像した。


壁いっぱいの絵。

カラフルな電車。

街全体がキャンバスみたいな場所。


「ちょっと見てみたいな。」


男は自転車を押しながら言った。


「世界にはグラフィティーで有名な街もある。」


「どこ?」


男は振り向いて笑った。


「それはまた今度教える。」


そう言って男は自転車に乗った。


橋の出口に向かって走りながら言った。


「でも覚えておけ。」


「何?」


「グラフィティーは国が違うと意味も変わる。」


ソウマは橋の壁を見た。


小さなタグ。

消された跡。

少しだけ残った色。


同じグラフィティーでも、

場所によってこんなに違う。


ソウマは思った。


世界の街を歩いたら、どんなグラフィティーが見られるんだろう。


そんなことを考えながら、ソウマはゆっくり帰り道を歩き出した。