ホステス時代に最もゴォ~ッと燃え上がった恋のお相手は、実の父親よりも年上で59歳の中尾さん。


私がクラブ勤めに何とか慣れ始めた頃に、お店の常連である中尾さんがフラリと来店されました。


開店一番のお客様でしたので、私は待機テーブルから、中尾さんの観察をしていました。

肩がぶつかったボーイに怒鳴った・・・「何やってんだお前!しっかりしろよ!」って・・・おっかない人だ。

お相手したくないな・・・呼ばれませんように。


「Ayaさん、志保さん、お願いします。」


無常なボーイの声に冷や汗をかきつつ席についた。


中尾さんは言葉は荒く顔もおっかない(宍戸錠さんみたい)が、お話してみると優しい人だった。

海外の話で盛り上がり、たんまり溜まったマイレージを自慢してたな。

私と志保さんで「いいなぁーっ!」なんて言うと、「おう!今度お前ら一緒に来るか!メルアド教えろ!」と言われ、志保さんが自分の名刺の裏に書き始めた。

私も書こうーと思った時に、「Ayaさん、お願いします。」とまたもや無常なボーイの声が。


「あらら、呼ばれちった。携帯番号はさっき交換したし、お電話しますね。」と立ち上がろうとしたら、

おい!まだお前アドレス書いてないだろう!書いて行け!

もう面倒だなぁ・・・と慌てて名刺に殴り書きした。


翌日、昨日のお礼の電話をしたら、また怒られた。

おい!お前メルアド間違ってたぞ!メールできなかった!また店行くからその時教えろ!

・・・作戦とかでなく、素で書き間違えていた。


その後「お店のお客様(=特定のお気に入りはいない常連さん)」だった中尾さんは、「Ayaのお客様」になりました。

来店される時は同伴が多く、よく「何食べたい?」って会話を飲みながらしました。

いつも分厚いカード入れだけを持ち歩き、支払いの時は「どーれーにーしーよーうーかーなー♪」と歌いながらカードを選んだり、月末で「こちらカードの限度額が・・・」なんてボーイにつき返されると「なに!そうか!んじゃ(別のカード抜き取り)これならどうだ!!」なんてふざけたりして、豪快でお茶目な人でした。


私が中尾さんと急接近した理由、それは嫉妬でした。


ある日中尾さんは、前回私のヘルプについてくれたミキちゃんと同伴して来ました。


何も聞いてない私は一瞬目を疑い、困惑しました。


中尾さんの席に呼ばれ、平静を装って「一緒にお食事だったんですか?」と聞いた。

ミキちゃん 「はい!この前私がフォアグラ食べてみたい!って言ってたの覚えててくれたんです!

中尾さん 「おう!この前Ayaが席立った後に聞いてよー!んでも今日のはイマイチだったぞ!

ミキちゃんに悪気はない。

中尾さんにも多分ない。

しかしモヤモヤしたまま会話をしていると、ミキちゃんが呼ばれ、私と中尾さんは二人きりになった。


Aya 「いつの間にミキちゃんと仲良くなっちゃってもー!私だってフォアグラ食べたいもん!

中尾さん 「いやだから前回お前が立った後だってばよ!あんな若い娘さんと何話していいか分かんないだろうが!

私は甘えた口調であったものの、中尾さんはちょっぴり焦っていた。


Aya 「私も誘ってくれたっていいじゃない・・・今日すごくびっくりしました・・・。

中尾さん 「いや前回聞いたらあの子昼間は車のディーラーに勤めてるって言うから、それはAyaも一緒に聞いてたろう?だから最初ディーラーに車見に行ったんだよ。車だぞ。そしたらちょうどあの子と顔合わせたからさ・・・Ayaがそんなに怒ると思わなかったぞー!お前怒ると怖いな!ははは


車のディーラー勤めでクラブは週3回のアルバイトのミキちゃんが羨ましいと思った。

私にはホステスの顔しかない・・・私は車の相談には乗れないもの。


それから中尾さんは他の女の子を誘わなくなり、私とだけ同伴するようになりました。


中尾さんと同伴の日、私は新しい着物を着て出勤しました。

中尾さんに着物姿を見せるのは初めてで、恥ずかしかった。喜んでくれるといいな・・・。


待ち合わせの前に一度店に寄り、出勤してきたママに着物姿を見てもらっていたら

ママ 「あらAyaさん、袖の仕立て糸が残ってるわよ。残してるの? 」

Aya 「え!気付かなかった!わざとじゃないですよー切ってきます!」

ママ 「袖の仕立て糸はね、好きな男性に切ってもらう古い慣習があるのよ。この世界では、それを切ってくれたお客様が新しい着物をプレゼントするっていう・・・まぁ最近じゃこういう事をご存知のお客様も少ないけどねぇ。

Aya 「それいい!!私今日中尾さんと同伴なので、言ってみます!」


着物のAyaは貫禄があるなあ・・・とからかいながら、中尾さんは来店した。


ママ 「中尾さんいらっしゃいませ。Ayaちゃん綺麗でしょう?今日はおばさんもご一緒させて下さいな。」

中尾さんの隣に座った私はさっそく言った。


Aya 「中尾さん!この袖の仕立て糸切ってもらえます? 」

中尾さん 「え!嫌だよそんなモン!それ切ったら俺新しい着物やらにゃならんだろーがっ!! 」

ママ「あらさすが中尾さんっ!!よくご存知ですねぇ・・・! 」

Aya 「だってこの糸って好きな人に切ってもらうんでしょう?私、中尾さんに切ってもらいたいもん。 」

中尾さん 「・・・はぁ。着物なんていくらかかると思ってんだよ・・・。俺ぁそこまで金余ってねぇぞ・・・。 」


トホホな中尾さんをママがなだめ、結局中尾さんは「んじゃ片方だけ切ってやる!!それなら着物半額分でいいだろーがっ!! 」と言い、照れ臭そうに糸を切ってくれました。


その後はまた書きますね...