ものから殺意を感じることがある。

包丁とか、そういう死に直結するものからってことではなくて、もっと静かな殺意というか、日常生活でも腹の立つ人間に対して死んでしまえ、と思うことはあっても実際に殺すことなどない、けれどもその瞬間は相手を心から軽蔑する、あの時に出ている殺気。あれを人ではなくものから感じることがある。

俺は冬の鉄棒から殺意を感じる。

公園の隅の佇まいであったり、握った時の、あの、突き放されるような冷たさは遊具と思えない。

夏の鉄棒は、表面が熱されていて、見方によっては怒(いか)っているようには見えても真の殺意には届いていない。

冬は、本当に芯まで冷えたあの悍ましい温度を思い出すだけで手の力が抜ける。

雨に濡れた鉄棒も、武術の達人の後ろに竜が見えるのと同じ感じで、窪塚洋介が見える。

真っ黒な棒に水滴が膨らんで浮き上がっていて、こちらの声が届かない存在であることを表しているようで怖い。