第1話[天才科学者(自称)の登場!!]
火星から持ち帰られた"パンドラボックス"その名の通り悪魔の箱だ。
エネルギーを解き放たれた箱の魔力により、日本は三国に分断され、混沌を極めていた…
「今度は東都西刑務所付近で目撃情報?わかったすぐ向かうよ」
俺が仮面ライダービルドになったのは今から大体一年前。
記憶喪失だった俺は、カフェnastaのマスター=石動惣一に拾われ、言われるがまま変身することになった。
まあ、最初こそ戸惑いもあったけど、死んだ父さんが信じた"ラブアンドピース"を信じて突如現れた敵"スマッシュ"と戦っている。
「うぐぐ…ブグァ!!」
夢遊病のように徘徊するスマッシュ。手には東都ガーディアンのもげた足をぶら下げていた。
「その豪腕…さてはゴリラか!!」
目の前に立ち塞がるように立ち、ベルトを取り出す。
「さぁ、実験を始めようか!」
《ラビット!!タンク!!ベストマッチ!!》
「変身!!」
《Are you Ready? 鋼のムーンサルト!!》
ウサギと戦車の力を宿したフォーム変身して、スマッシュと対峙する。
機敏な動きをするウサギの機動性と確実に敵を仕留める威力を持つ戦車の攻撃力を合わせ持つ、俺の考えたベルトなスタイルだ。
「グワァァァ!!」
過去の戦闘で、スマッシュには自我がないことが判明している。つまり小難しい先読みや作戦なんか立てる必要はなく、いかに攻撃を受けずウィークポインドをつくかが肝心になる。だからこそラビットタンクはベストマッチで、俺の最もお気に入りのフォームだ。
「あらよっと!こっちこっち!」
猪突猛進でくるスマッシュを機敏なジャンプで躱しては、攻撃を叩きこむ。
ゴリラの腕力で強化されているとは言え、スマッシュの元は人間。ダメージを受け続ければ、次第に動きは鈍くなる。
「そろそろいけそうだな!」
《ボルテックフィニッシュ!!》
スマッシュを元に戻し、成分を抜き取るにはこの技を当てるしかないが、これが結構大技で、外せばこっちが大ピンチになるから弱らせてからじゃないと撃てない所謂必殺技だ。
最大出力で地を蹴り飛び上がる。真っ直ぐではなく、弧を描きながらターゲットに向けて全エネルギーをぶつける。
やがて耐えられなくなったスマッシュの成分が気化、人間から離れたところを空のボトルで回収する。
以前回収せずにいた所、再び同じ人間に戻ろうとした時は焦った。
「ふう、一件落着…?」
一息ついて変身を解こうとすると、側の茂みが揺れる音が聴こえた。
「隠れてるのはバレバレだ。何もしないから出てきなさいよ」
ガサガサ、ガサガサ。
ビリビリのシャツに、泥だらけの作業服のようなズボン。靴は片一方なく、見る限り普通じゃないのがわかる。
「…れは…俺は…」
「へ?なんだって?」
「俺は何もやってねぇ!!」
突然の大声に体を震わせて驚く。
「わ!?え、何々!?」
するとそこへ、テレビでも見覚えのある人物が軍隊を引き連れて反対側から出てきた。首相補佐の確か名前は…氷室 玄徳。
「そこまでだ。万丈龍我…脱獄の罪は重いぞ」
「だから俺は何もやってねぇ!!」
「大人しく投降すれば命まではとらん。だが抵抗するなら、コイツらが動くことになる」
男が合図すると、政府のガーディアン達がぞろぞろと前に出てきた。
「いやいやいかに凶悪犯でも生身の人間相手に幾ら何でもその武装は…」
しまった。つい口を挟んでしまった。
「なんだお前は?…まさか職員達が噂していた仮面ライダーとかいう、部外者には関係ない。今回は見逃してやる、さっさと立ち去れコスプレ男。さあ万丈龍我、決断の時間だ。大人しく投降するか、ここで死ぬか選べ」
プツン。俺の中で何かが切れた音が聞こえた気がした。
「…なんで誰も信じてくれないんだよ。だから俺は何もやってねぇ!!」
「なら俺が信じてやる。逃げるぞ万丈」
「お前、自分が何しようとしてるのかわかっているのか!?」
「ラブアンドピースのために戦うヒーローに向かってコスプレ男呼ばわりする奴は信用出来ない。本人が否定してるにも関わらず無理やり死刑になんかさせるか」
おもむろに取り出した携帯型のガジェットにライオンの特性を持つボトルを差し込む。すると一瞬でバイクに変形し、真横に現れた。
「なんだよこれ!?お前何モンだよ!?」
「正義の味方だよ。それよりどうこの発明品。最高でしょ?天才でしょ?これで駐輪場探さなくていいし、たっかい駐輪代も払わなくてすむ!」
「まじかよ!すげぇーな!!」
「さあ、乗れ!!」
「俺が運転すんのかよ!?」
「じゃなきゃどうするの?お前にあいつら倒せないでしょ」
「待て!貴様!!国家に刃向かうなら貴様も犯罪者だ!!」
「いやいや!冤罪は立派な国の汚点でしょ?ちゃんと調べ直しなさいよ!」
取り出したドリルクラッシャー(これまた天才的発明品)をガーディアンの足元に乱射し、目くらましの煙幕を立てる。
「じゃあね〜」
しばらく走って。追手が来ていないことを確認すると、バイクを降り、徒歩で細い路地を進む。隠れ家のような外観のカフェに入ると人っ子一人いない店内にコーヒーを淹れる男が一人。
「マスター、しばらくの間もう一人増えるからよろしく!」
「またペットか?何度言ったらわかる。まったく何匹買えば気がすむん…だ!?」
明らかに逃げてきましたと言わんばかりの人間を連れてこられたら、誰だってこう反応するだろう。
カップからコーヒーが溢れながら更に注がれている。マスターは目と口を全開にして呆けている。
「逃亡犯なんだから、暫くはここの地下でおとなしくしててくれよ」
「お、おう…わりぃな。巻き込んじまって」
「いいっていいって。アイツの言動にはムカッときたし、冤罪なんだろ?なら晴らしてやろーじゃない」
「おいおい…大丈夫なのか?俺は面倒ごとは御免だぞ」
「なるべく迷惑かけないようにするって!」
「なるべくってなぁ…あんた名前は?」
「ば、万丈龍我だ。厄介になる、すまねぇな」
「石動惣一だ。よろしくな、万丈。気軽にマスターと呼んでくれ」
そう言って(先程と別の)カップにコーヒーを淹れて万丈に差し出した。
「まあ飲んでみろよ」
「お、おう…ありがとうな」
ここだけの話。マスターのコーヒーは劇的に不味い。だから万丈がどんな反応するか楽しみでしょうがない!
「うぇ…なんだこれ、不味いな」
「え?」
「え?」
「あ、ああ!すまねぇ!俺味覚馬鹿だから…そのわりぃ!」
「気にすんな。やっぱり今回も駄目かぁ」
「むしろよく飲み込めたな万丈。お前本当に人間か?」
「なんだよ!飲めねぇって程じゃねぇだろ」
「いやいやいや絶対飲めない。ちょっと試しに貸してみ?…ブハッ!!ゴホッゴホッ!!いつもに磨きがかかって不味い」
「お前それはマスターに失礼だろ!!てかあれ?お前俺の名前普通に呼んでっけど、お前の名前なんだよ!?」
言われてみれば、名乗ってないか。
「俺は天っ才物理学者の桐生戦兎だ。改めてよろしくな、万丈」
「おう、世話になるぜ戦兎」
「ま、天っ才物理学者は自称だけどな」
「自称なのかよ!」
「言わないでよマスター!!」
続く