時は近未来。ゼノンの野望は選ばれしドライバー達の活躍により阻止された。
かのように思われていた…
「平和ボケした世界に変革を!!」
横浜新都心に建てられたアルカディア記念館。選ばれしドライバー達の戦いの歴史を体感できる施設で学校行事などでよく利用される場所だ。
高校2年生の来陽も、校外学習で訪れていた。
「退屈過ぎる〜小中で散々聞かされたって」
戦いが終わってもう20年も経つ。それ以降1度としてジャイロゼッターを悪用した事件も無ければ災害救助以外で出動したと言う話も聞かない。そこまで安全なのに何故こんなにも同じ事を学ばせるのか、来陽には理解できてなかった。
"こんな事ならいっそ、大事件でも怒ればいいのに"
講義などうわの空にそんなことばかりが頭に浮かぶ。
が、そんな不謹慎なこと考えるものじゃないとすぐに別のことを考えはじめた。その時だった。
ドドドドドドッ!!!!
建屋全体が揺れるような地響きと共に、緊急時のベルが館内に鳴り響く。
数秒して連絡を受けた職員が、教員と連携し避難誘導に入った。
「指示に従って速やかに避難してください。訓練ではありません。緊急事態です、慌てずゆっくり指示を聞いて!」
誘導されるがままに、館内にいたであろう人達が続々と外へ出てきた。来陽達が最後のようで、出た後も立ち止まらずなるべく距離を取るように案内がされていた。
そんな中、若い女性の声が耳に入った。
「まだ息子が中に居るはずなんです!!行かせてください!!」
「危ないから下がって!!」
「コウタ!!コウタを助けに行かせて!!」
その声を聞いた瞬間には、既に体が動いていた。
「俺がいって来る!おっちゃんはその人を避難させて!!」
「あっ!ちょっ!!君、待ちなさい!!」
制止の声を振り切り、轟音響く館内に再突入する。
「コウタ君いるかー!?いたら返事してくれ!!」
火災が発生しているのか、通路は煙に覆われてとり視界はゼロに近かった。
なるべく音の中心に近づかないよう気をつけながら、辺りを見回す。
すると、煙の少ない部屋の隅に小学生くらいの少年が蹲っていた。
「コウタ君か!?怪我はしてないか!?」
「そうだけど…お姉ちゃん誰?」
「ママの代わりに助けに来た!怪我してないなら急いでここを出るぞ、ママが待ってる!」
「うん!」
少年の手をひき、硝煙の中を出口を目指す。心なしか煙が濃く、音が大きくなっている気がした。
(どうにか気づかないでくれ!)
全力で走り、出口前の最後の曲がり角を通過しようとした時、巨大ななにか視界に入った。
「あれは…!」
ゼノンのジャイロゼッターに酷似した何かが、展示のライバードからメビウスエンジンを引き出そうとしてるところに目が合った。
「野郎!!コウタ君、このまままっすぐ進めば出れる!!振り向かずに走れ!!」
「お姉ちゃんは!?」
「俺は大丈夫だから早く!!」
少年が走り出したのを見届けた上で、そばに転がった瓦礫片を拾い、マシンに向けて投げつける。
「何者かは知らねぇが!!正義のヒーローになにしてくれてんだぁ!!」
コツン!欠けらは上手いこと的に当たったが、聞いている様子はない。
だが、それでいい。これだけの事態、機動隊が到着するまでそう時間はかからないはず。それまで気を引ければ十分だ。
「おら!こっちだぞウスノロ!!」
石を投げては走る。それをどれくらい繰り返しただろうか。遠くの方でサイレンの音が聞こえた。
(よし…!もう少しのはず!)
その一瞬の気の緩みが、足元の段差を見逃した。
「うわぁっ!!」
思いっきり転び、瓦礫で切れた足から出血が止まらない。
「ってて…やばいな、コレ」
立ち上がろうと顔を上げると、銃口がこちらを捉えていた。
「ゼツボー的に絶望だぜ…」
「敵影ナシ。突入!!」
機動隊が到着した時、謎のマシンは姿を消していた。
「酷い有様だ。要救助者は1名、捜索開始」
機動隊に参加していた轟 祐司は焦りにかられていた。
娘が要救助であることを事前に知ってしまっていたのだ。
本来なら参加を辞退すべきなのだが、自身の安心を優先させてしまったのだ。
妻亡き今、たった1人の家族すら守れずしてなにが機動隊だ。そう思い黙って参加したのだ。
このことがバレればクビだが、それでも娘の命には変えられないと思った。
やがて捜索域が戦闘があった場所まで到達した。
「ここにも生体反応はありません。うまく逃げれたのでなければ…」
「だとしたらなんだ。例え亡骸でも連れて帰る。それが俺たちのやってきたことじゃないのか?」
「しかし倒壊の恐れが…タイムリミットですよ隊長」
「お前たちは先に戻れ。俺はもう一度くまなく探す。探さなきゃいけないんだ」
祐司は、他の隊員を帰らせた後もずっと倒壊の恐れのある館内を探し続けた。
そして4時間が過ぎた頃、ついに娘の姿を発見した。
手足は瓦礫によって潰れ、コンクリートから飛び出した鉄骨が胸を貫いていた。
その無残な姿を見て、祐司は声にならない叫びとありったけの涙を流した。
(俺は…死んだのか…)
暗闇の中を彷徨っているようだ。
手足の感覚は無く、心臓の鼓動も聞こえない。
間一髪外れた敵の弾は、地下のガス管を直撃。爆風に飛ばされたところで記憶は途切れている。
(死んだらどうなるんだろう…17かぁ…長いようで短かったなぁ)
夢なんて大層なものはなかったが、それでもやりたいことは山ほどあった。
「ああ…ごめん父さん。俺…」
そう呟いた時、何処かから声が聞こえたような気がした。
「…こい…って、こい…戻ってこい!来陽!!」
「父さん!?」
途端、暗闇の中に一筋の光が見える。
「あそこに行ければ!」
そう思うと不思議なことにさっきまではなかった手足の感覚が復活して、勢いよく走り出せたのだ。
「うおおおおお!!!」
近づくにつれて光は強く、大きくなっていき、最後には来陽の体全体を包み込んだ。
「…ここは?」
目覚めるとそこは病院のベッドの上だった。
機動隊のスーツのままという事は、気が気じゃ無くてずっとそばについていてくれたって事だろう。
「…来陽、目が覚めたんだな」
「父さん。俺…眠ってる間ずっと父さんの声が聞こえてた気がするよ」
「そうか。なら、父さんの願いをちゃんと神様が叶えてくれたって事なんだろうな」
椅子から立ち上がった祐司は、無骨な手で優しく来陽を抱きしめた。
「今まで散々家族よりも事件を取っておいて、自分の娘が事件に巻き込まれたのに…間に合わなくて本当にすまない!!助けてやれなくて本当に…すまなかった!!」
顔は見えなくても、声だけで泣いているのが分かる。自分が無茶なことをしたせいでこんなにも親を悲しませるとは…
「俺の方こそ心配かけてごめん。でも俺、父さんのことずっと憧れてたんだ。人のために戦ってる父さん。だからつい身体が動いちまって…」
「聞いたよ。コウタ君だったか?お前が命を賭けて助けた少年が、ついさっき親御さんと挨拶に来た。俺は父親としてお前を誇りに思う。そして俺はお前に謝らないといけないんだ」
そういうと祐司は、来陽の両肩を掴み目を見て話しはじめた。
「いや、だから謝るのは無茶をした俺の方で…大体父さんが間に合ったから俺は病院にいるんだろ?じゃなかったら俺はあそこで…」
瞬間、見覚えのない記憶がフラッシュバックする。壁に打ち付けられ、瓦礫の山に落ちる。剥き出しになった鉄骨が背中を貫く。
「死んだ…のか」
来陽の言葉に、祐司の顔色が悪くなる。
「…手術の後遺症で前後に記憶障害が出るかもと聞いていたが、そう上手いこといかないか…そうだ、来陽。お前は一度死んだ。間に合わなかった…だから」
続きを言おうとした時、部屋の扉が開き白衣を着た男が入ってきた。
「祐司、無理すんな。後は俺が話すよ」
「カケル…すまない、頼む」
話には聞いていたけど、実際に会うのは初めてだった。この人が伝説の英雄、轟カケル。
「来陽ちゃんだったな。悪いな大人の勝手で君を生かした。来たるべき時のために」
「来たるべき、時?」
「君の命を奪った"アレ"は、イビルゼッターとも違う正体不明の敵だ。それを倒せるのはメビウスエンジンを改良して作ったメビウスエンゲージだけだ。だがメビウスエンゲージは小さ過ぎてジャイロゼッターを動かすことが出来なくてな…祐司、じゃなくて君の父さんと取引をした。もちろん、君の意志は尊重する。鉄の心臓と機械の手足で闘うことが嫌なら無理強いはしない」
「俺、やるよ!カケルさんみたいにヒーローになりたいんだ!」
「来陽、お前…そんな簡単な話じゃ」
「まあ待てよ祐司。来陽ちゃん、君がヒーローになれるかどうかは最後の時が来ないとなんとも言えない。が、君が闘うというのであれば俺たち大人が全力でバックアップする!一緒になろうぜ、ゼツボー的にかっこいいヒーローに!!」
「はい!!」
これが俺の。いや、俺たちの戦いの始まりだ。