【著者の恋愛描写がうざいですが、再掲載スペシャル二編目です】
「『世界に一つだけの花』批判」で、暗喩暗喩ゆーてますが、具体的な例があまり出せてないですね。
中国は晩唐の詩人、李商隠の「無題」から。遠距離の彼女に捧げた熱烈なラブソングであります。彼は、同じく題名のない恋愛詩を数多く作ったことで有名です。
春蚕死に至って糸方に尽き
(しゅんさんしにいたっていとまさにつき)
蝋炬灰と成って涙始めて乾く
(ろうきょはいとなってなみだはじめてかわく)
「蚕は死ぬまで糸を吐き続け、蝋燭は燃え尽きるまで蝋涙を流し続けます」
前後には何の説明もありません。何のこっちゃ。
これは、詩人の彼女に対する思いの深さ、いのちを懸けた忠実な恋慕の情を譬えたものなんです。
あたしはこーゆーのすごく好きですが、もっとマイルドで穏やかなものを好む人には、ちょっとストーカーっぽくて怖いと思われるかも知れないくらいの激しい情熱であります。
ちなみに、今まで好きになったあんちゃんにこの詩を贈って、一回も成就したためしがありません。「東風力無く百花残(くず)る」というフレーズに合わせて、封筒を開けて便箋を取り出したらパッと桜の花びらが散るっていう工夫もしたんですけれども。ええ、マメに花びらを拾い集めに行って、萎びてしまわないようにちゃんとプレスもしましたとも。
この無敗の不吉ジンクスを破ってくれる殿方を探しています♪
と、あたしのどうでもいい事情は置いといて・・・・。
この七言律詩の中には、「愛している」「好きだ」なんて言葉は一言も使われておりません。
しかし、「愛している」「好きだ」と百遍言うよりも、「春蚕死に至って糸方に尽き 蝋炬灰と成って涙始めて乾く」のたった二行、たった十四文字の方が圧倒的な迫力、有無を言わせぬ説得力があるのです。
同じ詩の中からもうワンフレーズ引いてみましょう。
暁鏡に但だ愁う雲鬢の改まるを
(ぎょうきょうにただうれううんびんのあらたまるを)
夜吟に応に覚ゆべし月光の寒きを
(やぎんにまさにおぼゆべしげっこうのさむきを)
「明け方頃、あなたは鏡に向かって髪の毛が抜け落ちるのを嘆き、真夜中、私が贈った詩を口ずさんで、月明かりの下で冷え冷えとした思いを抱いておられるのではないだろうか」
これはあたしの独自の解釈なんですが、「髪の毛が抜け落ちるのを嘆き」って所は、若い娘ではなくて、ある程度年のいった人を想像させます。勿論、昔のことですから、年がいってるといっても二十代くらいかも知れないですが。
その仮説が正しいとして話を進めますが、つまり、しっとりとしていてちょっとアンニュイな、大人の恋愛なんですね。その匂い立つような艶やかな雰囲気、はてはこの女性の人物像、繊細な心の動きさえもを、詩人は、「しっとり」だの「アンニュイ」だの「艶やか」だの、身もフタもない形容詞は一切使わずに、たった十四文字の情景描写で表現してしまうわけです。
見よ、これが文学ってもの、暗喩、象徴的表現の真骨頂であります。
これが、最近の我が国で流行のポップスナンバーだったらどうなるでしょうか。
恐らくこんな感じです。
「君ももう年なんだから お互い大人の恋愛をしようよ」
いや、冗談でも、誇張表現でもないですよ。ホンマにこんな歌詞の曲が流れてるの、お店とかでよく耳にしますからね。こんなのがいいと思ってる人がいるから商品化されてるんだし、流行ってるんですからね。マジ洒落にならんわ~。
もう一つ、好例を挙げてみますね。
「『世界に一つだけの花』批判」で登場したポストカード作家の友人の作品です。
その絵には、リンゴの生る木と二匹のくまさんが描かれています。
一匹は木に登ってリンゴを取り、一匹は下で歌を歌っています。
「君はボクのために歌をうたって下さい ボクは君のためにりんごをとるよ」
その絵を見た瞬間、「これを大切なあの人に贈りたい」と思いました。
そして、その時にはよく見ていなかったのですが、だいぶ後になって初めて気がつきました。
木の下で歌を歌っているくまさんは、車椅子に乗っていたのです。
それだけで充分でした。
そうか、あなたはこういう世界を愛しているんやね、これが、あなたが夢に描く美しい世界なんやね、と、あたしは心で彼女に囁きかけました。
もう一枚、大きい亀さんの上に小さい亀さんが、そのまた上に小さい亀さんが・・・・というように、四匹の亀さんが積み重なり、一番上の亀さんの背中に乗った猫さんが、高い木に生ったリンゴを取る、という絵も買いました。
「ひとりじゃできないコトってたくさんある」
この二枚を、この間ある人へのとっておきプレゼントに添えて贈りました。
彼の反応↓
「へえ。かわいいですね(・_・)」
いえ、全然いいんです。多分、ここであたしとおんなじように大袈裟な涙を零して感じ入ってしまうような感受性の強い文学青年とは、別の意味で合わないと思います。
「男ってどうしてこうなの!?」
「男の人のこーゆー所が好きなんだよな~」
どちらもあたしの本音であります。