書きとめておきたいことがたくさんあるのに

時間と言葉が

砂のようにこぼれおちていく。

 

「言葉」は、

時に、宇宙にある遠い星のようなもの。

 

発された言葉が届く頃には

背景にあった気持ちや人は

もう存在していないかもしれない。


だけど、受け止めた側の心の中では、いつまでも煌めいている。


「鬼になれ」

と父がよく言っていた。

最初はよくわからなかった。


でも、ここ数年

「鬼になれ、全部のみこんで生きていけ。」

と言われたその意味が

少しわかってきた気がした。

 

強い、強い人だった。

父がどれほどのことをのみこんで鬼のように生きてきたのか

大人になって、少しずつ理解するようになった。

 

その父が、2週間前にひどい脳梗塞を起こし

穏やかな呼吸をしながら今もずっと眠っている。

意識が戻る見込みはなく、病院からの電話を緊張しながら待つ日々。

きっともう父と話すことはできない。

 

弱気なところなど一度も見せたことがない父なのに

数か月前、私にくれたメールで

「体力的に色々なことが起こり、歳を感じるようにになった」、と言っていた。

私の、「身の回りの全てを受け入れ、平然と生き抜く若い力を

とてもうらやましく思っている」と。

 

そして、今まで「鬼になれ」と言ってきたのに、、

今回は私のことを「強い、鬼よりも強い」

と、言ってくれた。

 

その時微かに感じた違和感と

数週間前、珍しく父と電話で話した時の

ちょっとした不安な気持ちは

今回のことにつながっていたのかもしれない。

 

人一倍努力をして国立の医学部に入り

早くに結婚しながら家族を立派に養い

私くらいの歳の頃に、慣れない土地で開業して

倒れるまで現役の開業医であり続けた父。

 

スキーも、歌も、ピアノも、筋トレも、多趣味で

すべてものすごい努力で人並み以上の力をつけていった

本当に努力家な父。

 

そんな父の娘であることを誇りに思っている。

 

たくさんエネルギーとお金をかけてもらったのに

私はあっちこっち道草や寄り道をして、転んだり座り込んだりして

まだ父の足元にも及ばない。

 

結局、最後まで安心させてあげることができなくて

それが心残りだけど、、

だからこそ、これからも努力します。

まだまだ父の背中を追いかけていかないと。


お父さん、ありがとう。


きっと父なら

「悲しむな、人間はいつか死ぬ。当たり前のことだ。

今目の前にある生活と家族を大切に、今を生きろ。

お母さんのことだけはよろしく頼むな」

と言う気がする。

 

だからくよくよしない。

お父さんのように、強くなる。