キラは震える手から銃を落とした。
アスランの脇腹から鮮血がにじみ出る。
「あ・・・あぁ・・・。」
見開いた瞳に、痛みを飲み込んだアスランの微笑みが映った。
「大丈夫だ。
ケイは、君の敵じゃない。」
「ち、違う・・・。僕は・・・。
アス・・・ラン・・・。じゃ、無い・・・。」
キラは左右に小刻みに首を振りながら、両手で頭を抱えるように蹲った。
「わかっている。」
アスランはキラの頭にそっと触れた。
まるで泣きじゃくる子どもをあやすように。
「キラー!!!!」
ケイの烈火のような叫び声が飛ぶ。
その声にキラは怯えたように大きく体を揺らし、
目にした光景に硬直した。
キラが目にしたのは、銃口を真直ぐに自分へ向けるケイの姿だった。
『僕たちは、同じだよ・・・』
その姿が、先刻の自分の姿に重なり合う。
「アスランを傷つける奴は、僕が許さないっ!」
アスランは痛みを押して、
初めてケイと出会った時のように微笑みを浮かべていた。
「ケイ。
キラは俺を傷つけてはいない。」
アスランは穏やかな口調で、ケイに語りかけた。
「だって、血がいっぱい出てるっ!」
ケイは銃口をキラに向けたまま、アメジストのような瞳を涙で潤ませた。
「キラに傷つけられた訳じゃない。」
「でもっ!」
ケイは迸る感情をそのまま体に、表情に表す。
「でもっ、アスランを撃った!
キラが、撃ったっ!」
ケイの言葉が、キラには自分の声として胸に突き刺さる。
「キラは撃つつもりは、無かった。
ケイのことも、俺のことも。」
アスランの言葉に、キラは息を呑んで顔を上げた。
アスランの脇腹から滲む真紅の領域はみるみる広がっていった。
――僕が・・・アスランを・・・撃った。
キラは閉じこもるように、体中を抱きかかえた。
「そんなの、嘘だっ!」
アスランの言葉を理解したいという欲求を頭と心が受け入れないもどかしさに、
ケイは激しく頭を振った。
「俺はキラを信じている。」
ケイは息を呑んで顔を上げる。
「そして、ケイのことも、信じたい。
ケイも、撃つつもりは無いんだろ。」
ケイの頬を涙が伝い、小さな掌から銃が零れ落ちた。
ケイは目と頬を真っ赤にして、
もみじのような手を胸にあてた。
ケイが胸に湧き上がる暖かさを初めて自覚したことを、
キラとアスランは知る由も無かった。
「ケイ。」
ケイの柔らかな感受性により、
ケイはアスランの声が心に優しく触れるように感じていた。
触れられて初めて知る、他者のぬくもり。
「今のキラは、いつものキラじゃ無い。
今、キラは泣いているんだ。
だからキラを、早くみんなのいるところへ連れて行きたい。」
ケイはゆっくりと頷いた。
「ありがとう、ケイ。」
アスランは操縦席に蹲ったキラへ視線を向け、コックピットを閉じた。
「キラ。みんなのところへ、戻ろう。
ラクスの元へ、帰ろう。」
――ラクス・・・。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を伏せ、キラは力無く頷いた。
と、画面にケイの通信が入った。
「あのね、近道があるの。
だからねアスラン、早く怪我、治してね・・・。
それからね・・・。」
ケイはぐちゃぐちゃに絡まった感情の糸をほどくように、もどかしくも懸命に言葉を紡いだ。
「キラ・・・。
早く、元気に・・・なってねっ。」
ケイは擦れて消えてしまいそうな声で、
その小さな胸に納まりきらない程の感情を、キラへの思いを伝えた。
キラは腕と腕の間から顔を覗かせることしか出来なかった。
しかし、それがケイへの否定以外の、
キラの精一杯の感情の表れであることを
アスランはわかっていた。
「ケイは優しいな。キラと同じだ。」
ケイは涙を飲み込んだ笑顔を浮かべた。
――本当は、キラともっと違う形で出会えることを、
夢見ていたんだろうな・・・。
アスランの脳裏にケイと初めて出会った時の光景が蘇る。
『僕ね、キラに会いに来たのっ!』
無邪気に出会いを夢見て、現実となったこの時を喜んだ。
『キラっ!』
弾むようなケイの声・・・。
自分と同じように出会いを待ち望んでいたと、
飛び込んだ先にはあたたかな受容が待ち受けているのだと、
ケイは疑わなかった。
だが、その先にあったのは
自己の存在の否定だった。
小さな心は悲しみに押しつぶされそうに違いない。
それでも、ケイは涙を飲み込み笑顔を見せる。
その笑顔を支えていたのは、アスランから感受した受容だった。
「あのね、ここを真直ぐ行ったら赤いゲートを左に曲がるの。
そしたらびゅーんって、外に出れるから。」
ケイの得意気な調子に、思わずアスランは笑みをこぼした。
「またっ、会えるよね・・・。」
ケイの消え入りそうな声に、
アスランは微笑みを返した。
ケイは元気良く頷き、
子どもらしい笑顔を見せた。