「キラっ!!」

アスランはキラを追って研究室を後にした。

空気も足音の反響をも押しのけるようにキラは全身で駆けた。

「キラっ、何処へ行くんだっ!」

アスランの声はキラの耳には届かない。


――来るな・・・

キラは色彩も音も失っていた。

胸を打つ鼓動だけが体に響き、

それが急き立てるように生を強く迫り、

キラを追い詰めた。

『生そのものが悪の象徴だと』

――やめろ・・・

『何故気が付かなかった』

――僕は・・・




「キラっ!!」

アスランがキラの肩に触れようとしたその時、インカムに通信が入った。

「マレーナよ。施設内に生命反応5、MSレベルの熱源1。」

マレーナの報告がケイの存在と事態の懐疑を確信に近づけた。

「メンデル内に生命反応及び熱源は確認できないわ。だけど、これって。」

マレーナの報告をアスランの穏やかな声が打ち切った。

「全員艦に戻ったか。」

マレーナはアスランの声に寥々たる寒気をもよおした。

「はい。」

そう答えることしか出来なかった。

「全員即刻メンデルを離れろっ。俺とキラはストライクで脱出する。」

「了解しました。」

通信が切れるか否かの間に、

アスランは床に転がったパイプを蹴り上げ手にすると、キラの足元目掛けて投げつけた。

足を取られたキラが前方で転倒したと同時に、アスランは馬乗りになるようにキラを取り押さえた。

「脱出するんだっ!今、すぐにっ!」

声を荒げたアスランの熱を帯びた瞳に、キラは押し黙った。


一瞬。

全てが音を失ったような静けさが2人を包んだ。


キラは微かに眼光を取り戻すと同時に、その瞳は負に揺らめいた。

砕かれた心が指の間から零れ落ちないように、

絶望の足音を肌で感じながらもそれを打ち消すように耳をふさいで。

キラは小さく頷き、その拍子に涙が一筋流れ落ちた。

それは救済への本能的な要求の表出だった。




アスランはキラを起こすと、キラは力なく立ち上がり壁に寄りかかるように体を支えた。

アスランによって保たれたキラをキラとして繋ぎとめるものによって、

キラは精神的安定を得た一方で、

その繊細でやわらかな部分に負が巣食おうとしていた。

無心にケイから逃れようとした先刻の力は、見る影も無くキラから抜け落ちていた。

アスランはキラを背負い、ストライクへ向かった。


――キラを護る。

今、アスランを突き動かしていたのはそれだけだった。


――あったかい・・・。

浮力を感じるような意識の中で、

キラはアスランから

そっと銃を抜いた。