施設は老朽化というより人為的荒廃が目立った。


キラは不思議な程、自分の精神状態が落ち着き払っているのを感じた。

ラウ・ル・クルーゼによって突きつけられた事実。

あの時持ち帰った母の写真は、今でもキラの手元にある。

だが、キラにとっての真実はそれで十分であった。

それ以上の事実を重ねても、

変わらない真実を得ていたからだ。


――今の自分が全てだ。


あの時、仲間と共に築いた真実だった。

キラの中で、キラとケイの出生の真実は別物として思考されていたのはそのためだった。

キラの意識は、2機のMSとパイロット、その背後にある組織、その目的へと向けられていた。

故に、キラの精神状態が凪いだように静かであることも不思議ではなかった。


アスランは何も言わず、キラの状態へ常に意識を向けていた。

だが、キラの立ち振る舞いからある程度の安堵を覚えていた。

傷に触れる強さを得たのだと、改めてキラの強さを認識した一方で、

不確実な確信を拭い去ることが出来なかった。




「では、もう一度確認します。第一に、施設内の安全確認を行います。」

施設内の一室を仮設本部とし、計画の最終確認がされた。

――キラの声って、マイルドなのよね。

メイリンはキラの心地よい声に耳を傾けながら、小さく溜息をついた。

――少数先鋭って言っても・・・。

そこに集まっているのは、プラントから7名、オーブから4名の10名だけだった。

――これでこの施設の調査かぁ。ハードだなぁ。

と、メイリンは自然と女性の方へ目を向けた。

調査隊の中で女性はメイリンの他に1人であった。

色気たっぷりの笑顔の下には、つなぎのファスナーが閉まらない程豊かな胸が覗いている。

――マレーナさんと、もっと仲良くなれるといいな。

隣の老人、コル爺とは打ち解けられそうな予感がしていた。

小柄な体格に”お髭”と言いたくなるような、自慢のお髭をたくわえたその風貌を愛らしく感じていた。

何より、エンジニアとしての経験と情熱を裏打ちしたような拳に、尊敬と親しみを抱いた。

――アンリは紳士的な人・・・。

コル爺の隣の青年を横目で見た。

背の高い鳶色の瞳をした青年は、育ちの良さからくる誠実さが滲み出ていた。

それはジュール隊に欠けた個性だった。

彼はつなぎ等の作業服ではなくオーブの軍服を着用していた点から、

システム系のエンジニアだと見て取れた。

システム系の男性にありがちな軟弱さが感じられず、

鍛えられたしなやかな身体はMSエンジニア特有の体育会系の空気とは違っていた。




「施設内はとても広いですし、老朽化が進んでいます。

みなさん、無理をしないで、安全第一で調査を行いましょう。」

キラの言葉に耳を傾けながら、アスランは安全確認とその後の調査の進行予定を計算しなおしていた。

――話し方までラクスに似てきたな。

作業をしながら笑みをこぼしてしまった自分に気付き、笑みは苦笑に変わった。