ふと、朝からずっと「ピィーピィー」という音が外から聞こえることに気がついた。
その音は、決して大きな音ではないが、注意して聞くと、一定間隔でずっと鳴っている。
私はこの音を知っていた。
ちょうど1年ほど前、実家で飼っていた犬の最期を看取った。
ミニチュアダックスで見た目はいつまでも可愛い子犬だが、しっかり歳を取ったおばあちゃん犬で、後ろ足を引きずるようになったと思ったら歩けなくなった。
寝たきりになり、こまめに寝返りをうたせてあげていたが、褥瘡(床ずれ)ができてしまった。
傷口が痛むのか、身体が痛いのか、「ピィーピィー」とか細い声で一日中鳴いていた。
その声と、今アパートのどこかから聞こえてくる声は酷似していた。
私のアパートでは、本当にたくさんの人が犬を飼っている。大型犬もとても多い。
犬と散歩をしている人を見るたびに、こんな大型犬が要介護になったら、どうやって面倒みるんだろう…と思わずにはいられなかった。
聞いたところによると、アメリカではペットの安楽死を選択する人が多いらしい。
愛犬のとても辛そうな最期を看取った身としては、苦しい思いをさせないで楽に天国へ送ってあげるという考えに賛同したくなるが、実際またそんな時が来るとしたら、自分に安楽死の選択ができるとも思えない。
でも、確かに聞こえてくる「ピィーピィー」というか細い声は、ここアメリカでもペットを介護している人がいるんだと思い、嬉しい?とは少し違うが、応援したい気持ちで、日々過ごしていた。
ここ数ヶ月は忙しい日々を過ごしていたので、いつからかぱったり音が聞こえなくなったことに、すぐには気付かなかった。
あぁ…ついに。寂しい気持ちを表すかのように、ここ数日は午後にものすごい量の雨が降る日が続いていた。
昨日、リビングのソファから、勢いは収まったが止む気配のない雨をぼんやり見ていた。
すると、その目線の先にある小さなバルコニーの天井に、鳥の巣があることに気づいた。
黒い小さな鳥が飛び出したり戻ったりしているの見えた。
「ピィーピィー」の正体は、介護の犬ではなく、鳥のヒナだったのだ。
音がしていた方向もピッタリ一致していた。
娘に、鳥の巣があると言うと、「ママ、ずっと前からあるよー!今気づいたの?」と笑われた。
深妙な面持ちで夫に「「ピィーピィー」の音はね、苦しんでる犬の声なんだよ…」と話した私は何だったんだろう。
でも、勝手に心を痛めていたが、声の主が苦しい思いをしている犬ではなく、生命力の塊で良かった、とホッとした。
余談だが、父が退職して犬を飼い始めた。まだ6ヶ月の柴犬だが、黒くて眉毛の辺りが茶色になっている顔が、以前飼っていた愛犬にとってもよく似ている。生まれ変わりのようだ。 生涯苦しむことなく、元気に楽しく長生きしてほしいと思う。