マンチェスター・バイ・ザ・シー | XIAHSTAR

マンチェスター・バイ・ザ・シー

 

 

今年に入って、まだ16本しか観ていませんが

既に私のナンバーワンは

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」です!

 

 

 

 

 

 

2017年アカデミー賞脚本賞、主演男優賞を受賞した作品なのに

日本公開はようやくこの13日

首を長くして待っていましたが

待っていただけのことはある素晴らしい作品でした!

 

ボストンで便利屋として、契約したアパートの修理を生業として

ひとり暮らしているリー(ケイシー・アフレック)

兄と兄の幼い息子パトリック(成長した役はルーカス・ヘッジズ)との

楽しそうな漁の様子映像で織り込みながら

怒りとも違う行き場のない何かを抱えている現在のリーを映し出していきます

 

心臓に持病を抱え余命が限られている兄

妻はそれがもとで家を出ていき、息子と二人暮をしていますが

弟のリーがパトリックを見守るように一緒に仕事をしています

 

家に帰れば娘2人と生まれたばかりの息子がいるリー

子煩悩なリーの姿をカメラは映し出していきます

 

妻と子供たちに囲まれ、幸せだったはずのリーが

何故、ボストンでひとり暮らしているのか

 

ボストンのリーのもとに

兄の死が伝えられます

 

兄は、故郷の街で一緒に暮らすことを条件に

養育の費用も残し、息子のパトリックの後見人として

弟のリーを指名する遺言をしていました

 

しかし、故郷である海沿いの小さな町マンチェスター・バイ・ザ・シー

リーにはどうしてもそこに戻ることの出来ない理由があることを

観客である私たちはようやく知ることになります

 

それはあまりに辛すぎて

乗り越えることも、前に進むこともできない出来事・・・

ここで初めて観客は、幸せに背を向けるようにして

その日一日をただ生きているようなリーの姿に納得がいきます

 

事件のあと故郷を離れても

兄は弟を気にかけ続け

パトリックとともに弟の心を支えていました

 

父の死を淡々と受け入れているように見えたパトリックでしたが

あるとき、パニックに陥ってしまいます

パトリックを気遣うリー

それは、後半リーを気遣うパトリックの姿と重なり

2人の結びつきの強さを物語っていました

 

自分の死後、最愛の息子を託した兄の気持ちは

息子の成長を弟リーに託すとともに

それによってリーの魂の再生をも願うものだったに違いありません

 

まさに海のように深い愛を息子と弟に注いでいる兄ジョーを

カイル・チャンドラーがその優しな瞳で体現しています

 

そして、ある日、リーは事件がもとで別れた妻ランディに

町で偶然出会います

ランディは、再婚して子供が生まれていました

 

当時、リーを責め続けたことを後悔し

リーを深く傷つけたことを謝るランデイ

言葉を絞りだすように慟哭するランディ役のミシェル・ウィリアムズは

観客の心を一気に掴みます

 

目を伏せ、言葉を探しながら

自分と君とは立場が違うというリー

たとえ悲劇を共有したとしても

決して自分を赦すことができないリーの怒り、苦悩、慚愧

リーのすべての感情が観てる私たちにも襲ってきて

涙が止まりませんでした

 


 

パトリックと故郷で暮らしていくことは

リーにとっても最善のことかもしれません

 

額に入れた3個の写真を

大切に持ち歩き、飾るリーの姿は

一時も忘れずに自分を責め続けることが

まるで生きる全てであるかのようでした

 

その3個の写真をパトリックが見つけ凝視するシーンは

リーの深い傷をパトリックが実感するシーンとなって

胸に重く迫ってきます

 

 

 

人はそんなに都合よく変われるものではないし

簡単に立ち上がれるものでもない

深い傷が癒えるものでもない

 

でも少しだけ・・・

 

最後にリーが下した決断は

行く道の先に微かな光を感じさせて納得のいくものでした

 

 

監督ケネス・ローガンの脚本は

リーを襲った出来事を真っ直ぐ見つめ

安易な結末ではないけれど

リーとパトリックの行く手を絶望に一筋の光を射し込ませて

少しずつ進んでみようと

人生を温かく包んでいるかのようでした

これこそ脚本ですね

 

 

結果的には新しい生活を掴んだランディと兄の元妻ですが

今も愛していると告げたランディのように

2人が背負う荷もまだ重いのだと思います

 

兄の元妻の再婚相手に

懐かしい顔が見られます~

 

 

 

ケイシー・アフレックは

その背中で背負い続ける罪の重さを

光を失ったようなまなざしで贖罪を

絞り出すような言葉は想像を超える孤独を

静かに深く体現して、心揺さぶられる演技でした

数々の賞に輝いたのは当然だと思いました

 

 

 

 

見逃したら絶対に後悔する珠玉の作品です~

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品を機にケイシー・アフレックが気になった方は

寡黙な機関士がはまり役だった「ザ・ブリザード」も

観てください~

 

 

 

 

鑑賞日:2017年5月13日