「何度でも望むだけ」
そう言われて、悩んだ末に、
「100万回!」
と、叫んでいた。
彼はうっすらと笑い、有名な魔法使いのように、よくしなる杖を振りかざし、
「%#%'&"!」
言語なのかどうかも分からない音を発した。
それが二日前のこと。
約束は守られた。
ただ、僕は猛烈に後悔していた。
それはそうだ。
誰だって後悔するだろう。
こんな力を手に入れたら。
「あー、また食べてる。ダイエットしろって言っただろ」
「reset」
靄が掛かったみたいに、一瞬だけこの世界が消え、僕は食べる前の僕に戻る。
ダイエットと怒っていた仲間も、
「よく頑張ってるよね、偉いよ」
僕の頭をぽんぽんと撫でて褒めてくれた。
そう、僕が授けられた力とは、やり直すことが出来る力。
甘いものを食べても、それは無かったことに出来る。
おかげでこの二日間、食べたい放題だ。
それにこの力のいいところは、食べた満足感だけはリセットされないと言うこと。
脂肪は付かず、満足感は持続する。
「えへ、そうかな」
「うん、凄いや。俺なんか何度挫折したことか」
ふうっと溜息を吐く仲間に、何だか申し訳なくなって俯いた。
魔法使いを名乗る男から、魔法を掛けて貰って、信じられない力を手に入れた。
しかもこの力は食べ物に関してだけではなく、ありとあらゆる失敗もresetしてくれる。
そうなると、ほんの些細な失敗もすべてresetしたくなり、しょっちゅう呪文を唱えることになる。
だから、後悔した。
何故100万回などと言ったのだろう。
永遠にと願えば良かったのに。
だから唱えたんだ。
「100万回をreset」
と。
すると、僕の周りから仲間が消えた。
僕はただの僕になり、ダイエットの必要もなくなった。
僕は泣いた。
僕に必要なのは、resetの力ではない。
辛くても共に歩む仲間の力だと。
今、僕は本当に一からやり直している。
もう一度仲間と出会い、
「初めまして、これから一緒に頑張ろう」
そう言って貰うために。
呪文ではなく、歌で皆の心に魔法を掛ける為に。
「reset」
だから、待っててね。
僕は、僕達は、また出会って、またやり直す。
君達に歌を届ける為に。
